外伝 .hack//無限増殖 オンラインプレイ


リプレイ非公開の伝説のセッション
「プチグソのエサを食う娘」
参加者は、天空を仰ぐ異邦人、kyo、早摩 利亜、途中からなお(敬称略)
それぞれのPCは、虚空、京、瑠璃、サンゴ。
GMは凧耶でお送りしました。

リクエストがあったとはいえ、非公開をただ公開するというのも芸が無い。
ですので、今回はリプレイというよりノベライズに挑戦しました。
結果、すんごい時間がかかりました(苦笑)
ま、評判が悪ければ、普通のリプレイに直しますので……

ではでは、とりあえず読んだってくらはい。


 虚空と京は、今日も今日とてマク・アヌで出会った。
 つい最近知り合った仲だが、どうも同じ時間帯にログインすることが多く、自然と一緒にいることが多くなった。
 水の都、マク・アヌを縦横に走る水路のせせらぎが、なんとも涼しげだ。
 広場でしばし顔なじみと雑談をかわした二人は、なんとはなしにカオスゲートに向けて歩いていた。
「で、これからどうするよ?」
 浅黒い肌に、軽装の甲冑を着込んだ侍のような姿の重剣士、虚空が言う。
 後ろで束ねた黒い長髪が風にふわりとなびく。
 隻眼の瞳は、どこか鋭さを感じさせる。
 自称「世話好き」にしては、剣呑とした雰囲気である。
「んあ? やっぱ、冒険じゃない? お前もそう思うよな?」
 青い髪に帽子をかぶった僧侶を思わせるローブ姿の呪紋使い、京が答える。
 ちなみに「お前」とは虚空のことではない。
「ブヒブヒ!」
 京が連れている「プチグソ」である。
 ザ・ワールドで育成できるペットのような存在、プチグソ。
 いたってノーマルな成長をした京のプチグソは、いたってノーマルな姿をしている。
 全身が水だったり骨だったり、まして腐れ貴族だったりはしない。
「そーか! お前もそう思うかプチグソ!」
 京は、自分のプチグソを「プチグソ」と呼ぶ。
 人間の名前に「人間」とつけるようなものだが、なぜかそう呼ぶ。
(その呼び方にも、慣れちまったな)
 虚空の心の声である。
「……んじゃ、行くか? できればもう一人ぐらいパーティメンバーが欲しいトコだが、サンゴはログインしてないみたいだし」
 サンゴとは、二人の共通の友人である。
 ちょっとしたPC集団に属しているらしいのだが、時間帯の都合でちょくちょくはぶれてしまうらしく、その都度マク・アヌでウロウロしている。
 そこを、虚空と京に発見されるのがいつものパターンだ。
 だが今日は見かけない。仕事が忙しいのだろうか?
「じゃ、誰かそこらへんの暇そうなPCをテキトーに誘おう」
「テキトーってお前なぁ」
「ん? あきらかにオロオロしている典型的初心者発見! 行くぞプチグソ!」
 橋の上に、ターゲットを発見した京が駆け出す。
「聞いちゃいないし……おい! 待てよ!」
 とりあえず、後を追う虚空。
 京のためというより、京のターゲットとなったPCを助けるためである。
 自称「世話好き」の面目躍如といったところか。

 水路にかかる石造りのアーチ橋の上で、重剣士、瑠璃は文字通りオロオロしていた。
 上着は短い燕尾服、下は水着のボレロのような巻きスカートをまとっている。
 そのスカートの左側にスリットがあり、長い足をさらに強調している。
 剣劇の舞姫といった風情である。
「どうしよう……何が起こってるの……?」
 瑠璃ははためよりもずっと深刻な状況にあった。
 まず、頭に「あなたを守ります……」という声が聞こえたりする。
「電波っ! いやぁぁっ!」
 それに何か記憶があいまいなのだ。
 ここがザ・ワールドで仮想世界であることは分かっている。
 自分には別の世界に「リアル」というものがあるらしいことも分かっている。
 だが、その「リアル」がどんなものなのかが、良く分からない。
 つまり彼女は「未帰還者」なのだ。
「どうしたの〜?」
 瑠璃を毒電波パニックから救ったのは、青い髪の呪紋使いであった。
「え?」
「オロオロしてるみたいだが」
 その呪紋使いの後ろから、隻眼の侍が声をかけた。
「あ……う……。うん、ちょっと困ってるんだ……」
 そうは言ったものの、まさか「電波が聞こえる」とは言えない。
「……えっと、あの……」
(ワケアリか?)
 そこらへんを瞬時に察する「世話好き」虚空。
 どう言ったものか、考えあぐねている瑠璃の視界に、プチグソが映った。
「ブヒ?」
「可愛いね」
 その愛らしい仕草に、思わず手を伸ばしてなでる瑠璃。
 いわゆるプリチーなおめめで、瑠璃をみつめて「プヒッ」と嬉しそうにするプチグソ。
「えへへ〜 いいでしょ〜 僕のプチグソ〜」
 幼年期の可愛らしさを保ったまま成長した「プチグソ」は京の自慢である。
「ブヒ?」
 プチグソは、首を意味もなくかしげた。
 プチグソブリーダーならば悶絶しかねない可愛らしい仕草である。
「いいなぁ……。私もプチグソ欲しいや……」
 虚空は、瑠璃の動作が異様に自然なことに気づいていた。
(なんかオカシイ? が、それよりも……)
「どうかな? 一緒にダンジョンに行かないか?」
 ここはゲームの世界、あまり他人のプライベートに踏み込むことはすべきではない。
 目の前に落ち込んでいるらしいPCがいる、そして虚空は「世話好き」だ。
 となれば、するべきロールは自ずと決まるのである。
「え……? 良いの……?」
「そうだね〜 一緒に行こ〜」
「ブヒブヒー」
 プチグソも賛成を表すようにいななく。
「丁度暇だったし」
 我ながら言い訳がましいと思い、虚空は苦笑いをした。
「有難う……。私は瑠璃。ヨロシクね?」
 今までの苦悩を忘れ、にこっと笑う瑠璃。
「俺は虚空。こちらこそよろしく」
 虚空はその笑顔で、とりあえず一つの目的を達成した。
「僕は京で、このこはプチグソだよ〜。よろしくね〜」
 京は、単にはしゃいでいる。
「いざ、カオスゲートへー」
 そのはしゃいだ勢いのまま、なぜか京が先頭でカオスゲートへ向かう一行だった。

 特にワードにこだわりをもたない3人は、ランダムワードを選択。
 すると「Δ 猛吠える 孤高の 荒野」とかダンディーなワードが表示された。
 虚空がエリアの適性レベルを確認したあと、3人はエリアに飛んだ。
 ワードに示されるとおりの、荒れ果てた荒野が広がっている。
「ひろ〜〜い……」
 きょろきょろと当たりを見まわす瑠璃。
(エリアに来た事もないのか?)
 虚空の疑念は、さらに大きくなる。
「何もないね ほんと」
 京は、そんなことは全く気にしていない。
「まずは精霊のオーブを使って、っと」
「さっすが虚空〜」
「基本だろ?」
 思わず苦笑する虚空。
 そんな二人に気づかずに、瑠璃はまだ、ひろいな〜、と珍しそうにあたりをくるくる眺めている。
「フィールドの魔方陣は無視して行こう。瑠璃、行くぞ?」
「あ、ゴメンゴメン。じゃ行こう!」
「ダッシュ〜〜」
 と、効果音(?)を口でつけながら走る京。
「ダッシュぅ〜」
 と、付いていきく瑠璃。
(初心者に変な事教えるなよな〜)
 と内心で苦笑する虚空。
 微笑ましいパーティである。

 そんなこんなで、ダンジョンの入り口である。
「準備はいい?」
 虚空が、初心者瑠璃を気づかう。
「……心の準備……?」
 何かを勘違いする瑠璃。
「いや、装備とかのことを言ってるんだけど……」
「あ、そっか?」
 ぽんっ、と手を打つ瑠璃。一々動作が自然過ぎる。
「僕はいつでもおっけ〜」
 物理攻撃力の高い杖を握り、不敵に笑う京。
「あと、青い宝箱は無闇に空けないようにね」
「はぁ〜い」
 遠足の時の引率の先生のような虚空である。
「それじゃ、行こうか!」

 ダンジョンの入り口から、1部屋進んだパーティは、プチグソのエサを見つけた。「ごーでんえっ!」
 最初に見つけたのは瑠璃である。
 見た事のない、不気味な丸い卵のような生物をしげしげと見つめる。
「なに……? これ……」
「あ 餌はっけ〜ん」
 続いて、京が反応する。
「餌……?」
 京のプチグソが目を輝かせている。
「プチグソの餌の一つで、金の卵だな」
 今一つよく分かっていない瑠璃に説明する虚空。
「他には血染めの卵やマンドラゴラァなど色々ありますね」
「そうなんだぁ……」
「つまりはプチグソのご飯だよ〜 おいしいらしい〜」
「じゅる……」
 プチグソはよだれが出ている。
「私が食べてもおいしい……?」
「やめといた方がいいかも〜」
「お腹壊すかな……」
 と言いつつも、興味津々の瑠璃。
「プチグソのご飯食べちゃだめだよ〜」
「そのとーり」
「ブヒ?」
 プチグソが、食べていーい?、と聞くように鳴く。
「プチグソ、食べていいよ」
 プチグソはその声を合図にがばっと飛びかかると「ガリガリっ、ゲフゥ」と一気に食べてしまう。非常に満足そうだ
「いいなぁ……」
 と未練がましく指をくわえる瑠璃。
「ブヒブヒ」
 と、膨れたお腹をぽんぽん叩いているプチグソ。非常に親父くさい仕草である。
「よかったねプチグソ!」
「ブヒッ!」
「食事はすんだな? じゃ、次行くぞ?」
「は〜い」
「おっけー 行こ〜」
 次の部屋は大きな広間になっており、その中心に魔方陣が回っていた。
「あれ……キラキラしてるね〜」
 無用心に近づこうとする瑠璃。
「近づいちゃ危ないよ〜。モンスター出てくるから」
 なんの問題も感じずに、とりあえず止める京。
「そ……そうなんだ……」
(魔方陣すら知らない? ド素人?)
 悩むは虚空ばかりなり。
「ま、練習って事で戦った方がいいだろうな」
 その虚空も、いいかげん悩むのはやめることにした。
(今はゲームを楽しむ。それだけでいい)
「じゃあ、やろっか」
 不敵にニヤリと笑いながら、杖をぶんぶん振りまわす京。
 現れたのはスカイフィッシュが二匹。
 空をひらひら泳ぐ雑魚、略して英訳してスカイフィッシュである。
「この程度なら練習に丁度良いな」
 虚空の隻眼が、鋭さを増す。
「そうだね やっちゃおう」
 ずいっと、杖を剣のように構える京。
 ドキドキし通しで、浮ついている瑠璃。
 戦闘開始である。
「最初だから、すこし下がった位置にいたほうが良いよ?」
 虚空は、同じ重剣士として瑠璃に手本を見せることにしたらしい。
「う……うん……」
 と、言われたとおりにさがってみる瑠璃。
「こいつらはそんなに強くないからスキルを使うまでもない。普通に攻撃をしよう。○ボタンで攻撃できるから」
 と、手本を見せる虚空
「まぁ〜るぅ〜〜!!」
 ○ボタンがなんのことか分からないながらも、攻撃する瑠璃。
「やーっ」
 そうこうしているうちに、プチグソにまたがって、颯爽と雑魚に殴りかかる京。
 杖の一撃で一匹のお魚が、しおしおと消えていく。
「やった〜 つぎつぎ〜〜!」
「おお……!!」
 赤兎馬にまたがる呂布のごとき京の勇姿に感動する瑠璃。
「まずは一匹だな」
 瑠璃が勘違いしないといいが、と思ってたりする虚空。
「よし、どんどんいこー」
 残る一匹を取り囲むようにして、げしげし殴る3人。
「やぁ!!」
 瑠璃の最後の一撃で、残る一匹もしおしおと消えていく。
 そして、その後に宝箱が現れたね。
「何……あれ……」
 宝箱すら分からない瑠璃。
 いくらなんでも宝箱の形すら知らないのはおかしすぎる。
「あれが宝箱。たまに青いのもある」
 冷静に解説する虚空。もはや瑠璃の世間知らず(?)に慣れたらしい。
「中にアイテムが入ってたりする〜」
 呑気に補足する京は、最初から気にしていない。
「青くないと良いの?」
「ああ、開けてもトラップとかは無いな」
「青いのを触ると魔法陣のたたりが〜〜、なーんてね?」
 両手を突き出して、幽霊の真似をする京。
「へ〜」
 無批判に鵜呑みにする瑠璃。
「おいおい、嘘を教えるなよ」
「ホントは、青いのは触ると危ないのよ〜 罠でやられる〜 特に僕が……」
「そうなんだぁ……」
 危うく誤解を免れた瑠璃であった。
「ブヒィ」
 たたりと聞いて、怖がるプチグソ。
「よしよし」
 とプチグソをなでなでする京。
「幸運の針金っていうのを使うと普通の宝箱になるんだ」
 プチグソを無視して、冷静に話を進める虚空。
「あ、あのくにょくにょしたの?」
「そう、くにょくにょしたの〜」
 くにょくにょしたの、で通じる瑠璃と京。
「そう……それだな」
 虚空は、苦笑するしかない。
「誰が開けるの?」
「虚空開ける?」
「まぁ物は試しって言うし、瑠璃さんが開けたらどうだ?」
 子犬の如き純な瞳の無邪気な二人の質問に、苦笑しながら答える虚空。
「と、虚空は言っています」
「わ……私……? じゃ、開けるね?」
 そして、その中身は。
「あれ? なにも入ってない……」
「しょうもない……」
 今日は苦笑ばっかりの虚空である。
「残念だったね……」
 本気で残念そうな瑠璃。
「スカ箱〜〜」
 ぽこぽこ箱を叩く京。
「ブヒブヒっ」
 プチグソも、真似してぽこぽこ叩く。
 京や瑠璃にとっては愛らしいその仕草も、虚空には滑稽にしか見えなかったり。

 そんなこんなで、先に進む一行。
「はりきっていこー」
 箱に奴当たりして、すっきりしたらしい京である。
 ところが、すっきりしてずんずん進んでいるうちに。
「あれ? さっき通らなかったか?」
 最初に気づいたのは、虚空である。
「うああ、迷った〜〜」
 迷ったのに、どこか嬉しそうな京である。
「あぁ〜〜方向音痴が祟ってる……」
 瑠璃は、自分の「リアル」が方向音痴らしいことを思い出したりしていた。
「よし、プチグソサーチだ。プチグソ! においで道を!」
「ブヒィ!」
 と敬礼してプチグソ行動開始。
 なんとか元の場所に戻る一行である。
「戻れたみたいだな」
「プチグソ、えらいえらい」
 親バカならぬ、プチグソバカ、京。
「凄いね〜プッチ〜」
 プチグソに勝手に名前をつける瑠璃。
「ブッヒイ!」
 と偉そうにしているプチグソ。
「敬意を表してこれからはプチ京と呼ぼう」
 珍しく冗談を言う虚空。
「プチグソよかったね? 名前つけてもらって〜。にしても名前がいっぱいだ」
 他人事のように笑う京。
 このパーティ、バラバラである。
「ゴメンネ、私が方向音痴だったばかりに……」
 プチグソに丁寧に謝る瑠璃である。
「プチグソ なんか名前いっぱいついたな〜」
 それでもやっぱりプチグソと呼ばれるのであった。

 それはさておき、一行は先に進む。
 その小さな部屋は、宝箱が一つ置いてあるだけ。
「ねぇねぇ、青いよ!!」
 無用心に宝箱に近寄る瑠璃。虚空の忠告をさっぱり忘れている。
「お〜〜 青箱〜」
「……京、幸運の針金持ってるか?」
「持ってるよ〜」
「じゃあ使ってくれ。実は切らしててな」
「ほいほいっ、ってああ、瑠璃〜!」
 幸運の針金を使おうとした京が、気づく。
「近づいちゃだめ〜〜」
「って触れるなぁぁー!!」
 京と虚空の、絶叫に近いツッコミが飛ぶ。
「え??」
 瑠璃は、一歩手前で止まった。
「青い箱には、鍵使わないと〜」
 と、そう言う京の声に、緊迫感は無かったりする。
「そうだった……」
 物忘れの酷い瑠璃である。
「ほいほいっと! 完治の水げっと〜」
 くにゃくにゃした幸運の針金で、宝箱を開ける京。
「お水じゃないの……?」
「おいしい水だよ」
「じゃぁ。飲んでいい??」
 このPC、言う事が無茶苦茶である。
「全回復できる優れもののアイテムだな」
「戦って、ダメージ受けたら使うんだよ〜」
 その非常識な質問を一切気にせず、普通に答える京。大物だ。
「そう、ダメージくらってからだよ」
 苦笑が通常になりつつある虚空である
「そうなんだ……」
 とりあえず、納得したらしい瑠璃であった。

 次の部屋は、長細い回廊の中央部に魔方陣が回っている。
「また来たね〜〜」
 呑気に言う瑠璃。
「魔法陣〜 ぐるぐる〜〜」
 版権にひっかかりそうで、ひっかからなそうな、ギリギリの発言をする京。
「ぐるぐる〜〜」
 オウム返しに真似する瑠璃。
(こいつらは……)
 笑うしかない虚空。
「ダメージはくらってないし、戦うか?」
 とりあえず、普通に接することにしたらしい。
「やっちゃおー」
「ご〜!!」
 お気楽二人組が、板についてきた感がある瑠璃と京である。
 勇んで3人が突っ込むと、現れたのはさまよう骨が2体。
「骸骨……」
 骸骨を見て、なぜか笑う瑠璃。
「初心者にはちょっときついか……?」
 そんな瑠璃をよそに、隻眼で骨を睨む虚空。
 多少は危機感を覚えたのか、杖を握り締める京。
「じゃ、いっちょやりますか」
「うし! がんばろうね」
 虚空と京が、瑠璃をかばうように前衛に立つ。
「私も頑張る!!」
 そうこうしているうちに、さまよう骨は、じりじりと近づいてくる。
「おりゃおりゃ!」
 相変わらず、プチグソにまたがった京は杖で殴る、殴る、殴る。
 魔法攻撃など、彼の辞書には無いらしい。
 一方虚空は、
(ちょいと瑠璃に実戦経験を積ませてやろうか……)
 と、世話好きらしい考えを起こしたらしく、瑠璃が骸骨の背後を取りやすいように心を砕く。
「今だ! 瑠璃!」
「てりゃ〜〜!」
 多少へっぴり腰ながら、瑠璃の重剣が骸骨の背骨をしこたま打撃する。
 当然、びくともしていない。
「まだまだ行くぞ」
 それでも虚空は満足したらしい。
 鋭い隻眼の瞳が、多少緩んで見える。
「うひゃー、骨つよーい」
 などと悲鳴をあげながら、なぜか嬉しそうな京である。
 おそらく殴り甲斐がありそうだと思ってるのだろう。
「硬くない?? 骨なのに……」
「牛乳いっぱい飲んでたんだよ、きっと」
「そっか……」
 などと、愚にもつかない会話をする、お気楽二人組。
 カタカタ、と笑っているのか、それともただ音が鳴っているだけなのか、じりじりと骸骨がにじり寄ってくる。
「来たよ〜」
 にじり寄る骸骨はぞっとしない、ちょっとだけ冷や汗をかく瑠璃である。
「くらえ! 火麟!」
 居合の構えから、炎をまとった重剣が、骸骨を2体ともなぎ払う。
 絶妙の間合いから放たれた重剣は、一瞬さまよう骨の動きを止める。
「やーーっ」
 プチグソに乗らずに、骸骨の頭蓋骨をボコボコにする京。
 これで、二人とも同じダメージなのだから、いかに京の物理攻撃力がおかしいのか分かる。
「いやあぁ〜、来ないで!!」
 炎に包まれながら、なおもにじり寄る骸骨にパニックする瑠璃。
 その悲鳴に呼応するように、ぐぉぉぉぉん、と守護者が現れる。
「何ッ!?」
「おおお???」
 驚きのあまり、攻撃の手を思わず休める京と虚空。
「……あれ……なに……?」
 一番驚いているのは、本人だったりする。
 骸骨一体は守護者の触手で砕かれる。
 そして、守護者は、ふぉんふぉん言いながら、再び消えてしまう。
「……」
 唖然とする虚空。
「なんか出たね……あれは召喚!? かっくい〜」
 すっとぼけたコメントの京。
「消えちゃった……」
 呆然自失の瑠璃。
「あれは、キット死んだお母さんだよ」
 混乱のあまり、わけのわからない事を言い出す。
「何かわかんないけど……良かったのかな……」
 とりあえず、正気に戻った瑠璃である。
 さまよう骨は、カタカタと音を鳴らしている。
 怖がっているようにも見える。
「なんか怖い、あの骨」
 と怖がってる骨に怖がる京。
 ちょうどそのころ、虚空は祖父に怖い目で見られて、別な意味で怖がっていた。
「虚空どうかした?」
「ん? イ、イヤナンデモナイヨ」
「虚空がカタカタしてる……?」
 祖父は木刀をもって睨んでいる。
 が、リアル虚空はその殺気に気づかないフリをしている。
「さ、さっさと終わらせるぞ!」
「虚空……」
 と、多少虚空の感じている殺気を察する京。
「頑張りまっす!!」
 んなことは、全く感じない瑠璃。
 虚空の剣撃と、京の杖が、瑠璃をフォローしながら残る骨を撃破する。
「やったーー うまくいったね〜」
 祖父の睨みが聞いたのか、虚空の気合が違う。
「良い汗かいた〜〜」
 と、ホントに少し汗をかいている瑠璃。
「あれ? 虚空……冷や汗かいてない……?」
 瑠璃がようやく虚空の異常に気づく。
「このこの」
 虚空は、骨の残骸にヤツ当たりするように攻撃を繰り返していた。
「虚空 どうかした??」
 後ろの方で祖父が立ち去る気配を感じる虚空。
「こ、こえぇ……」
「終わったら、道場に来い……」
 と祖父が小声でいったのが耳に届く。
「フフフフ……そうさ、どうせ逃げられない運命なんだ」
 と小声でぶつぶつ呟く虚空。
「京……虚空が可笑しいよ?」
「虚空、なんか危ないオーラ出てるよ……」
 唯一の常識人が壊れ始めた事に、本能的に危機を感じるお気楽二人組。
「ハッ!……い、いや何でもないでございますよ?」
 正気に戻るも、ショックで言葉がおかしい。
 そんなとき、プチグソは意味もなく、木箱に引っかかってこけていたりする。
「ぷっち〜?」
 プチグソはひっかかって、もがいている。
「あ〜〜プチグソ〜〜危ないよ〜」
「ブヒィ」
 助かったぁ、というカオをしてるプチグソ。
 二人の注意がプチグソに向かっているうちに、なんとか精神をたてなおす虚空。
「あ、はこはこ〜〜」
 虚空の異常をすっかり忘れて現れた宝箱に飛びつく京&プチグソ。
 ペットは飼い主に似るものである。
「箱……」
 なにかモノ欲しそうな顔で宝箱を見つめる瑠璃も、虚空の異変のことはさっさと忘れていたりする。
「じゃ、開けてみるか」
 何食わぬ顔で、宝箱をさっさと開ける虚空。
「アクエリアス……」
 出てきた完治の水を見つめて、わけの分からないことをつぶやく瑠璃。
 記憶が混乱していると、そういうこともあるのかもしれない。
「いや、完治の水だよ」
 律儀に訂正する虚空、自称・世話好きである。
「そろそろ半分きたね〜、どうする〜?」
 と、京が突然話を向けてきた。
 つまりは、時間的にも労力的にも、初心者には引き上げどきじゃないかという配慮である。
「皆はこれからどこに行くの?」
 その意味をくみ取った瑠璃が、ちょっと寂しそうに言う。
「上か、下」
 あくまでふざけた物言いをする京である。
「これからもし帰るのなら……フッ」
「虚空が泣いてる……」
 無論、虚空は泣くアクションコマンドは使っていない。
 が、未帰還者の瑠璃には、涙が見えたらしい。
「うーん どうしよ〜」
(なんかわかんないけど、下に行った方がいい気がなあ)
 普段は虚空に気を使ってもらっている分、こういう時はなぜか気がまわる京である。
「私はどっちでも……帰る所無いし……」
 そう言って笑う瑠璃には、ほんの少しだけ影があるように見えた。
「頼む……行かせてくれ……じゃないとヤバイ……」
 そして、悪夢の中の青年、虚空である。
 遠くからでも、祖父の素振りの音が聞こえる。
 風を切る、ビュッ、という音は舞い散る木の葉も真っ二つの勢い。
 それが誇張ではないことは、虚空が身を持って知っている。
(つっても少し寿命がのびるだけか……)
 瑠璃よりも悲壮感が漂ってたりする。
「えと、それじゃ下りるの……?」
「決まり〜〜 よーし行こう」
「それじゃ、れっつご〜」
 さっきまでのちょっと哀しそうな顔はどこに言ったのか、元気な京の声に笑顔で答える瑠璃。
 それは演技なのか、それともやっぱり素なのか。

 悲喜こもごもで、一行は先に進む。
 落とし穴の罠にかかりそうになった瑠璃を、とっさに助ける京と虚空。
「うわー危なかったー」
 相変わらず、京には緊張感が無い。
「うわぁ……ドキドキしたよ……」
 本当に心臓のドキドキが聞こえる未帰還者である。
「ふぅ、もうちょっとで落っこちるとこだったな」
 と、未だに瑠璃の手を握っていることに気づき、慌ててコマンドを解除する虚空。
 京はさっさと手を離して、プチグソになにやら話しかけている。
「あれ引っかかったら大変だね……」
 落とし穴の見えない底を見つめる瑠璃も、気づいていない。
 虚空は慌てた自分が、かえって恥ずかしくなったりした。
「プチグソ、ジャンプだ!」
 まるで、猛獣使いのようにいつにない鋭い声で命令する京。
「ブヒィ!」
 と、プチグソは向こう側へ……届かない。
「プチグソーーーーーーー」
 自分で命令しておきながら、予想外の事態に叫び、駆け出す京である。
 プチグソは前足がかろうじてひっかかって、じたばたもがいている。。
「あぁ!!ぷっち〜〜!」
 瑠璃も落とし穴を大きく迂回して駆け寄る。
「ひやひやするな」
 冷静さを取り戻した虚空が、ゆっくりと歩いて近づく。
「引っ張り上げないと!」
 多少は責任を感じているのか、ちょっと真面目な京である。
「大丈夫〜〜??」
 心底心配そうな瑠璃。
「いくよ! せ〜のっ!」
「ブヒブヒィ!」
 3人がかりでひっぱり上げる。
「良かった……」
 ぷっち〜の無事を確認して、へたり込む瑠璃。
「ひやひやするのはもうこりごりだ」
 そういう虚空の耳に、「秘奥義!」とか聞こえる。
 続いて、何か燃えるような音がする。
「ギャァー!」
 思わず悲鳴をあげるリアルの虚空。
 遠くで、練習用の人形が粉々になっているのが、虚空には分かったのだ。
「何??」
 びっくりして虚空の方を見る瑠璃。
「虚空、どうした???」
「大丈夫……?」
 きょとんとする京と、心配そうにのぞきこむ瑠璃。
「……もう勘弁してくれよ……」
 いつもは冷静な虚空も、こと、祖父に関しては二人に聞かれないように、呟くのがせいぜいであった。
「さ、さぁ次行こうか……」
「お〜」
 明かに上ずった声を、全く気にしない京である。
「大丈夫かなぁ……」
 今度は瑠璃が苦笑している。
 未帰還者の瑠璃には、虚空の冷や汗が手に取るように分かったりする。
「クマヌコノタメゴン!」
 次の部屋で、3人を待っていたのは、不気味な卵だった。
「わ〜〜 餌はっけ〜ん」
 手を取り合って喜びを表現する京とプチグソ。
「じゅるる」
 プチグソはよだれを垂らしている。
「美味しいのだね……」
 プチグソの様子を見て、さっきまで虚空の心配をさっさと忘れる瑠璃。
 恐らく彼女のリアルは、健忘症で食いしん坊だ。
「熊猫の卵だ〜 プチグソ食べちゃえ」
「うんうん、プチ京は幸せ者だな」
 いつものポジションに戻って、安心している虚空。
 がばっと飛びつき、がりがりがりがりっ、ゲフゥとするプチグソ。
「美味しそう……」
 今にもよだれがたれそうな顔の瑠璃。
 せっかくの端正な顔が、台無しである。
「食べちゃダメだよ。きっとおなか壊すよ……」
 プチグソはちょいと食いすぎで、腹がでているように見える。
 全部食べきれなかったみたいで、瑠璃に、食べる?、みたいに目線を送る。
「良いの??」
 京の忠告も耳に入らず、プチグソと目線で会話する瑠璃。
 さすが未帰還者である。
 プチグソは鼻先で、殻に残った血肉(?)をずいずい押しやる。
 中国の珍味、ピータンのように見えなくもない、かもしれない。
「うわぁ〜。有難う!」
 本気で嬉しそうな瑠璃である。
「プチグソはあげるって言ってるけどでも……」
 自分のプチグソの仕業とはいえ、ちょっと引き気味の京。
「とりあえず、頂きます」
「あ!!!」
 やめといた方が良いよ、と京が言う前に、瑠璃は本能のままに行動した。
「もぐもぐ……ごっくん」
「おいおい……」
 飽きれて物が言えないとは、こういう状態だな、と思っている虚空である。
 もはや、食べるコマンドが存在しないなど、問題ではない。
「……」
 一気にエサをたいらげた瑠璃は、沈黙して小刻みに震えている。
「どうした? おなか痛い?」
 さすがに心配する京。
 しかし、その時、瑠璃の舌の上では、えもいわれぬ味のハーモニーが広がっていた。
 例えるなら、世界三大珍味をいっぺんに食べた後にオレンジジュースを飲んだような感じである。
 ……つまり、筆舌し難いということである。
「……おいしぃぃ〜〜!」
 瑠璃、絶叫。
「えーーーーー!!!」
 京も、絶叫。
「マジかよ……」
 虚空、唖然。
「見た目より全然いいよ!! 二人も食べる?」
 と、殻に残った血肉(?)を差し出す瑠璃。
「いらない……」
「俺も遠慮するわ……」
 明かに引く男二人である。
「えぇ〜〜……。美味しいのにネェ……」
 プッチーを見ながら、殻むいて最後の一口を食べる瑠璃
「おいしいのかな……あれ……」
(でも食べたくないなぁ)
 さすがのプチグソマニアでも、理解不能な事態であった。
「じゃ、次にれっつご〜〜」
 とは、お腹いっぱいで満足した瑠璃の元気一杯の声である。
「そいじゃ……行こうか、京」
「う、うんそだね」
 何も食べていないのに、食傷気味の京と虚空であった。

 そんな3人に、次の部屋はちょっとした試練を与えたのだった。
「うっわ〜〜」
「うわっ、いきなり」
 という瑠璃と京の驚きの声でわかるように、部屋に入った途端に魔方陣が開いたのだった。
 つまりは、部屋の入り口近くに魔方陣が設定されていたのである。
 咄嗟に左右に分かれるベテラン京と実は剣道有段者の虚空。
 瑠璃は、取り残される形となってしまった。
 現れたのは、ヘビグソニアンが1体である。
「一体なら問題ないだろ」
 驚かせやがって、とゆっくり構え直す虚空
「余裕、余裕〜」
 京も杖を、やっぱり剣のように構える。
「……変な形……」
 真正面からヘビグソニアンの顔を見た瑠璃は、素直な感想を言った。
 ぐへぐへ、と下品に笑うヘビグソニアン。
「なんか気持ち悪い……」
 京のなかでは、それだけの理由でボコボコ決定である。
「でも、楽勝だね〜」
 しかし、楽勝ではなかったのである。
「チッ、避けられたか」
 ヘビグソニアンは、真正面の瑠璃に目標を定めて、素早く近づいたのである。
 結果、虚空の重剣が空を斬る。
「うわぁ……」
 とっさに反応できない瑠璃。
「プチグソガード!」
 そこはベテラン、プチグソに体当りをさせることで、ヘビグソの攻撃をはずして瑠璃をサポートする。
 モンスターは神聖な動物であるプチグソを攻撃できない。
 だが、プチグソをしっかり育成しないと成功しない作戦である。
「瑠璃! 今だスキル使え!」
 戦闘となるとちょっとだけ声が厳しくなる虚空である。
「え、えと、雷烙!」
 すっころんだヘビグソニアンに、瑠璃のスキルが炸裂する。
「……ふぅ……」
 冷や汗をかく瑠璃。
「よし、もいっちょ行こう!」
 杖を構えて、熟練の剣士のように不敵に笑う京。
 何かが違う気がするが、合っているような気もするから不思議だ。
「あぁ!!」
 汗で滑ったわけではないだろうが、瑠璃の次の攻撃はすっぽ抜けてしまった。
「あらら、プチグソもう一回お願い!」
 一説によると、モンスターには、プチグソに後光がさして見えているらしい。
 プチグソはダメージを受けないが、プチグソもモンスターにダメージを与えられない。
「ありがとう、プチグソさま……」
 それでも、なんだか崇めたくなった瑠璃である。
「つぎつぎ〜〜」
 飼い主は、そんなことはいっこう構わないみたいである。
「今度こそ!」
「……またか」
 太刀筋が狂っている虚空。
 それもそのはず、虚空のリアルで、怖い音が聞こえたのだ。
 雷鳴のようだが、それは恐らく祖父の仕業。
「……」
 無言だが、虚空は泣いているらしかった。
 グヘグヘッとニヤニヤ顔のヘビグソニアンが虚空に連続攻撃をする。
「くそぉぉぉ!」
 涙声で叫ぶ虚空。虚空の中で、何かが切れた。
 コントローラで表現しうる一番美しい攻撃動作で、ヘビグソニアンは真っ二つに斬り裂かれた。
 悲哀に満ちた美しさである。
「終わった〜〜!」
 安心して笑う瑠璃。
「あのモンスター。なんか今までで一番強かった気がする……」
 京の記憶にあるヘビグソニアンとは、違う気がしていた。
「このやろ、このやろ」
 さっきの骨と同じように、残骸にやつ当たりする虚空。
 ガキである。先ほどの美しい動作も、台無しだ。
「落ち着いて!虚空」
 錯乱気味の虚空を抑えようとする瑠璃である。
「フッ……恐怖は時に力へと変わる」
 遠く「まだ来ないのかぁっ!」とかいう叫びを聞きながら、何かを悟りそうな勢いの虚空である。

 連携プレイも磨きがかかってきた一行は、そろそろ最深部にさしかかっていた。
 そこで一行を待っていたものは!

「ごーでんえっ!」

「餌だぁ!」
 瑠璃はプチグソより先にそれを見つけ、プチグソより喜んでいた。
「ここってエサが多いなぁ。プチグソ太らないかな」
 このダンジョンはプチグソのエサが普通より多い。
「心なしか、ぷっち〜、丸くなったかな?」
 プチグソの腹をなでながら、瑠璃も同じことを思った。
「プチグソの代わりに……食べる?」
 かなり疑問に思いつつ、京は恐る恐る言ってみた。
「この卵はなんていうの?」
「金の卵。おいしいかは……分からない」
 先ほどはおいしいらしい、と無責任に言っていた京だが、相手は本当に食ってしまう驚くべき娘である。
 慎重に言葉を選んだ。
「……どんな味なんだろう……」
 食べる事を前提で悩む、恐るべき娘、瑠璃である。
「さっきの卵よりはいいと思うけど……」
 京は、未だに半信半疑である。
「もう何も言うまい……」
 虚空は諦めてたりする。
「とりあえず……」
 瑠璃が殻を剥くと、つるんとしたゆで卵みたいな物体が現れる。
「黄色い……。ゆで卵の黄身だけみたい……」
 食欲の本能が満たされる幸せに、嬉しそうに笑う瑠璃。
「ぱくり……。もぐもぐ……」
 迷うことなく、己の本能に従う瑠璃。
「なんか気持ち悪くなってきた……」
 想像を超えた事態に、さすがの京も参ってしまったようである。
「元気が出てくるような……」
 瑠璃は地球の全員から全力疾走の分の元気をあつめた元気ダマのような味を、感じた。
「さあ、次いこ……」
 気を取り直そうとする京。
「ごうごう〜〜」
 満足満腹でご満悦の瑠璃である。
 ちなみに、虚空は絶句している。


 それは、妖精さんによれば、アイテム神像の手前の広間だった。
 一人の女性拳闘士が、巨大なモンスターと戦闘中であった。
「あ」
「……なぜそんなとこに……」
 京と虚空には、その女性PCに見覚えがあった。
「えっと……知り合いですか?」
「最下層先こされたかー」
 瑠璃の疑問を聞いちゃいない京である。
 ちなみに、虚空はモンスターに神経がいっており、やっぱり聞いていない。
「それにしても、でっかぁ〜〜」
 質問が無視された事を、まったく気にせず巨大モンスターを見上げる瑠璃。
「手応えがありそうだ」
 虚空の隻眼が敵を見つめていた。
 その口元にはニヤリとした笑いが見える。
「……はっ!? なぜお前たちがここへ?」
「なぜと言われてもな」
「……まあいい。こいつを倒すの手伝ってくれ!」
「やっぱり知り合いみたいだね?」
「あぁ、瑠璃、こいつはサンゴ。で、サンゴ、こいつは瑠璃って言う」
 ようやく瑠璃の質問に答える虚空。
「……わかった。よろしくね、瑠璃」
「サンゴ? 良い名前だね。宜しくサンゴ」
「……あ、ありがとう」
 あまり誉められたことのない名前を誉められて、戦闘中にも限らず照れるサンゴ。
 と、なぜ戦闘中にそんな会話ができたかと言えば、プチグソにまたがった京が一人で戦闘していたからだったりする。
 呪紋使いの戦闘とは、明かに違う。
 しかも、相手のモンスターはガーディアン。
 普通は呪紋使い一人では、一撃で倒されてしまう、球形ゴーレムである。
 たとえ武闘派呪紋使いの京でも、そんなに引きつけ続けることはできない。
 ガーディアンが腕を大きく振り下ろす!
 1ヶ所にいた虚空と瑠璃とサンゴは跳んでそれを避ける。
「待たせた京。さて、行くぞ!」
 虚空は剣を構えて、駆け出す。
「おっけ〜」
 プチグソにまたがった京が、それに応じる。
「じゃ、いくよっ瑠璃!」
「はい、行きます!!」
 サンゴと瑠璃も虚空に続く。
 虚空の剣と京の杖が、交互に攻撃を加え、動きのトロいガーディアンを翻弄する。
「お前たち……知らない間に随分と息が合ってるな」
「すっご〜い!」
「へっへ〜ん」
 サンゴと瑠璃の感嘆に、自慢げな京である。
「そんな自慢する程の事でもないだろ。それより次行くぞ!!」
 虚空は戦闘中に気を緩めるなどと言う不謹慎なまねはしない。
 むしろ、幼い頃からの教育のためにできない。
 ガーディアンは連続攻撃にぐらついたが、ぐおぉぉぉ、と咆哮とともに立て直して襲いかかってくる。
「あはぅ!!」
 空振りする瑠璃。
 どうしても初心者の瑠璃が足を引っ張っている。
「頼むぞ、プチグソガード!」
 プチグソから飛び降りた京が、そのままプチグソの突進を命じて、フォローに回る。
「プチグソ、お手柄!」
 サンゴがガーディアンの攻撃を紙一重でかわしながら、プチグソの大活躍に賞賛を送る。
「ぷっち〜ありがと〜!!」
 命からがら、ガーディアンの間合いから逃げる瑠璃。
「プチグソいいこだ〜」
 自分のプチグソの活躍に満足げな京。
 その間にも、ガーディアンの攻撃を杖で受けとめたりしているのだから、この男計り知れない。
 主に瑠璃を除く3人の攻撃により、徐々にガーディアンは弱っていく。
「……まだかっ!? しつこいな!」
 長引く戦いに、サンゴが苛立つ。
「さっきのモンスターよりも随分強いよ〜」
 ちょっと泣き言が入る瑠璃。
「これぐらいじゃないと面白味が無いな」
 不敵な虚空。
「さすがボスキャラ つよ〜い」
 あっけらかんの京。
 四者四様である。
「行くぞッ! 雷烙!」
 戦闘の昂揚感の中で研ぎ澄まされた虚空の感覚が、またも絶妙な間合いでスキルを発動させる。
「はぁはぁはぁ……やったか……!?」
 ガーディアンの懐に入り接近戦を続けていたサンゴが、いったん間合いを取りなおす
「いやあと一歩だ。一気に落とすぞ」
「わかった!」
 と真剣な虚空とサンゴ。
「よ〜し!」
「おお〜〜!!」
 どこか間の抜けた京と瑠璃である。
「えと、雷烙!!」
 とにかく、スキルを使ってみる瑠璃。
「逝けよぉあ!」
「ボコボコだぁっ!」
 再度、左右に分かれて攻撃する虚空と京。
「これで最後にするっ! とりゃぁぁぁ!」
 巨大化したキキラにまたがり空に飛び上がったサンゴは、ガーディアンの横っ面を殴り倒す。
 そして、ガーディアンはとうとう崩れ落ちたのだった。
「……ふぅ。ややてこずったな」
 すちゃっと着地して、両手を払うサンゴ。
「こっぱミジンコ!」
 なにか嬉しそうに言う京である。
「はぁはぁ……」
 未帰還者は疲労を感じるのか、肩で息する瑠璃。
「みんなありがとう。一人じゃ倒せなかったよ」
 多少照れくさそうにサンゴが言う。
「ま、四人もいればな」
 虚空はぶっきらぼうに返す。
「困った時はお互い様です」
 対称的に、にこにこする瑠璃である。
 ガーディアンの残骸が消滅し、宝箱が現れる。
 なぜかこう言う事に目ざとい瑠璃がいち早く発見した。
「あっ、宝箱〜」
「よーし 僕が……」
 と京が開けると、中から出てきたのは、指人形サイズの「アルミのプチグソ像×134」。
「うおーーーーーーーー かわいい〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「可愛い〜〜!!」
 京と瑠璃が、狂喜の絶叫。
「……う゛っ ……こんなにたくさんのブサイク……」
「多すぎだろ……これ……」
 普通に困惑するサンゴと虚空。
「プチグソ人形いっぱ〜い」
「うわぁ〜〜い。指人形にしようっと」
「ホームに飾ろ〜っと」
 満面の笑みで、なおもはしゃぐ京と瑠璃である。
 良く見ると134個のプチグソは、それぞれ微妙にポーズが違う。
「見てみて!! 京! ちょっと違うよ!!」
 と瑠璃が「考えるプチグソ」をつけた指を京に見せる。
「わーーかわいいな〜 考えてる〜〜〜」
「これは……悩んでる〜〜!!」
「これはプチグソ女神像だ!」
 狂喜のあまり爆笑している瑠璃。
「……す、すてきじゃないか、よく似合うよ……ぷぷぷ」
 笑いをこらえきれないサンゴ。
「駄目だ……ついていけん……」
 めまいがしそうな虚空。
「サンゴも居る??」
 と、「食べるプチグソ」をサンゴに差し出す瑠璃。
「いや、エンリョしとくよ」
 と、にっこり断るサンゴである。
「可愛いのに〜」
 と、こっそりキキラの尻尾につける瑠璃。
「あ、勝手にキキラに付けないでね」
 瑠璃にちょっと怒ってるサンゴ。
「ごめん〜〜」
 と言いつつ、全然悪びれていない瑠璃である。
 そんな中、虚空には、
「お父さん、門下生が泣いてるじゃないですか! もう止めてくださいよ!」
「ええい、お前も相手をしろ! あいつが来ないのでは話にならん!」
 とか聞こえたりしている。


・・
・・・
・・・・
・・・・・
・・・・・・

 サンゴのプレイヤーはリアルの自室で目覚めた。
「……っ!?……夢か……。妙な夢を見たな……」
 カーテンを開けると、朝日がまぶしい。
「瑠璃……そのうち会えそうな気がする……」
 予知夢とは言わないが、ただの夢とも思えなかった。
 いずれ会うことになる。
 それは確信めいた予感だった。
「……さぁ〜てと、起きよ。」

「う〜〜ん?」
 京のプレイヤーは、珍しく目覚ましより前に起きた。
 そして、寝ぼけた頭で考えた。
 何か良いことがあったような???
「あーーーーーーーーーーー プチグソ人形〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
 その慟哭は、ご近所さんを驚かせたと言う。

「ん……妙にリアルな夢見たな……」
 虚空のプレイヤーは、妙な頭痛を覚えながら目覚めた。
「おい、起きたか! 寝坊すけが!」
 と、木刀もって既に胴着に着替えた祖父が現れた。
「ギャ−!」
 といって逃げるも、首根っこひっ捕まえられる
「さあ、朝稽古の時間だ! 朝飯はそのあとだ! 逃げたら抜きだからな!」
「止めてー!許してー!いやぁー!!」
 ずるずると道場にひっぱられていく。
 そして……
「甘い! ハエがとまるわ!」
 といいながら、やっぱり祖父の秘奥義炸裂!
「ぎゃぁぁぁー!!!」
 そのころ本宅では、
「あらあら、朝から元気ねぇ?」
 とニコニコ笑うおばあちゃんがいたりして……
(瑠璃に会えるかなって思ったけど……その前に死ぬかも……)
「グフッ……」
 おばあちゃんの平和な笑顔で、場面は終わる。


・・
・・・
・・・・
・・・・・

「……夢……?」
 夢から覚めたが未だにログアウト出来ない。
「まぁ……いっか……。」
 そういって私はまたマクアヌの岸辺に立つ。
 くよくよしてもしょうがない。
 ここでも夢は見れることが分かっただけでも良かった。
 まだ見ぬ仲間に会えることを信じて、今日も一歩前に進もう。
「……美味しかったなぁ」


 とまあ、そう言うわけで、お疲れ様でした。
 読んで下さって感謝いたします。

 ではでは。

 凧耶@管理人


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