ネリネ、温泉に行く


※ここからは、凧耶による創作です。
 皆様のキャラクターを壊さぬよう注意いたしますが、
 なにぶん、他人のキャラゆえ、すこーし違うかもしれません。
 ご了承下さいな。


 民宿である。
 ある人は、ボロっちいと言い、またある人は、味わい深いと言う。
 そんな、味わいボロっちい民宿に、一行はやってきていた。

 アウラの姉、ネリネは、いつもながら楽しそうであった。
 公家風少年、リュクスは、人の姿に戻ってもワンワンと言っていた。
 違法データキキラの飼い主、サンゴは、そんなチビ二人を見守っていた。
 少年忍者、たこは、いかがわしい妄想を振り払うのに懸命であった。
 錬金術師、エドは単純に温泉を楽しみにしていた。
 無口な拳闘士、風季は、ただなんとなくついてきただけだった。

「いらっしゃい」

 そう言って出てきた民宿の主は、犬耳犬しっぽの、人狼族の青年であった。

「忍者君の知り合いなら歓迎しますよ?」

 そう言って笑う民宿の主は、とても人が良さそうに見えた。
 民宿の主の犬耳としっぽが、ふうわりと揺れる。

「いきなりすみません。あ、よろしくお願いしますねw」

 キキラの頭をなでながら、サンゴは代表者として挨拶をした。
 民宿の主は、キキラを不思議そうに見てから、たこを見、そして何か致命的な勘違いをして、納得したらしかった。

「おう、よろしくな」
「よろしく頼む」
「頼むでござるよ」
「よろしく〜なのよ〜♪」
「おんせんあるのぉ?」

「まあ、見ての通りのボロですからねw それでも温泉も卓球もありますよ?」

 ボロと言いながらも、民宿の主は自慢げに言った。
 その目は、月夜亭について語るときのマスターに似ているように見えた。

「まずは、温泉をお楽しみ下さいなw 浴衣データも貸し出ししてますしね」

 すすめられるまま、一行はその足で温泉に向かった。


 それは露天風呂であった。
 石造りの結構ちゃんとした湯船である。
 ボロい外観からは想像もできないくらい立派、といえば分かるだろうか。
 

 男湯

「ふぃー、気分でるなー」
 にかっと笑うのは、湯船につかったエドである。
「……そうだな」
 普段無口な風季が珍しく応ずる。
 表面上はなんの変化も分からないが、一行と行動をともにする事で、風季はいつになく楽しんでいた。
「ああ、リュクスどのっ!」
 たこは、リュクスが風呂で泳ぐのを止めようと、必死であった。
「にょ〜、すいすぃ〜」
 たこの言葉を無視して、というか耳に入らないのだが、リュクスは泳いでいた。
 平泳ぎ、クロール、背泳ぎ、バタフライ、のし……
 器用なものである。
「俺も泳ごうかな?」
「……」
 風季は、微かに苦笑したようだった。


 女湯

 サンゴは、ネリネの身体を洗っていた。
 キキラは先に洗って、今は湯船の中である。
「う〜ん、くすぐったいのよ〜♪」
 と、ネリネが身をよじるので、なかなか上手くいかない。
「こら、動いちゃだめだろ?」
「きゃは、くすぐったいの〜♪」
 データの世界で、身体を洗うことに意義はほとんどない。
 だが、ネリネを人間と同じ様に扱い、リアルと同じ様に扱う事は、とても大事なことに思われた。
 なぜだが知らないが、サンゴは直感的にそう思っていた。


 男湯

「にゅ? くすぐったいの〜? なにしてるのかなぁ?」
 と、女湯へと潜水を試みようとするリュクスを、たこが必死に阻止していた。
「ダメでござる!」
「え〜、なんで〜?」
 リュクスに邪心がないのは分かるが、だとしても、たこには許せないのであった。
「へんなのぉ?」
 という騒動の片方で、
「おおっ、どんな技だよそれ?」
「単なるコツの問題だ」
 と、風季が両手で水鉄砲をやってみせていた。


 女湯

「じゃ、ネリネ、温泉に入ろうか?」
「おんせんするのよ〜♪」
 そう言うやいなや、ネリネは湯船にざっぱーんと飛び込んだ。
 キキラがびっくりして、飛び出す。
「あはっ、ネリネそれはルール違反だよw」
「ふぇ? るーるいはんなの?」
「そう、温泉は静かに入るものなのw キキラが驚いちゃったでしょ?」
 ふーん、そなんだぁ? としきりにうなずくネリネを見て、サンゴは知らずに微笑んでいた。


 男湯

「だからダメでござるよっ!」
「えー、けちんぼー」
 リュクスとたこの押し問答は続いていた。
「……」
「おーいそろそろ上がるぞ〜」
 エドに言われても、しばらく二人のしっぽのある少年はにらみあっていたと言う。



「湯加減どうでした?」

 人の好い民宿の主は、人の好い笑顔を浮かべて、人の好い口調で言った。
 民宿の主の犬耳としっぽが、ふうわりと揺れる。
 無論、ネリネ以外の者に、お湯の温度など分かるはずも無い。
 全ては気分の問題である。
「いいお湯だったぜ」
 浴衣姿のエドは、両手を頭の後ろで組んで、にかっと笑った。
「そうだな」
 おなじく浴衣姿の風季が同意する。
 こちらは、浴衣というか着流しにも見える。
「あーあ、ねーねと一緒に入りたかったょぅ」
「まだ言うかっ!」
 犬耳の少年二人は、まだ言い争っていた。
「お連れさんはまだ出てきてませんね。どうです、湯上りの牛乳なぞ?」
 それとなく、言い争いを制しながら、民宿の主が言った。
「おおっ、もらうぜ」
 牛乳、という言葉に、なぜがエドは敏感に反応した。
「拙者もいただくでござる」
 根が単純なたこなぞは、すっかりケンカを忘れていた。
「俺はコーヒー牛乳が良いんだが、あるか?」
「もちろんありますよw」
 にやり、と民宿の主は笑った。
「ボクは、フルーツぎゅーにゅー」
「はいはい、それもありますよw」
 マニアックな要求にも、慌てることなく対応する。
 というか、マニアックな要求を聞くと嬉しそうにする。
 どうやら民宿の主は、月夜亭のマスターと同じ人種であるらしかった。
 ほどなく、民宿の主はどこからか、牛乳とコーヒー牛乳とフルーツ牛乳を持ってきた。

「あー、ふるーつぎゅーにゅー」
 叫んで走ってきたのは、サンゴに髪を乾かしてもらったばかりのネリネである。
「ねーねも、ねーねものむのよ〜♪」
「はいはい、ちょっと待ってて下さいねw」
 民宿の主はそういうと、どこかに消え、フルーツ牛乳を片手に戻ってきた。
「おう、長かったなw」
 エドが声をかけたのは、自分の髪を乾かしてきたサンゴである。
 ポニーテールを下ろして、浴衣を着ているので、いつもより淑やかな雰囲気である。
「なんだか、さっきとは別人みたいだな(苦笑)」
 風季の中では、見知らぬモンスターと勇敢に戦う戦士の姿しかない。
「ん〜、ネリネにいろいろ教えてたら、長くなってな」
「お嬢さんも飲みますか?」
 民宿の主は気を利かせて、フルーツ牛乳を一本余計に持って来ていた。
「あ、ありがとうw」

 ぐびぐびぐび

 風季を除く全員が、同じタイミングで、腰に手を当てて牛乳をぐいぐいと飲み干した。

 ぷはー

 という声まで、同じタイミングである。
「なんだか、どこかの兄弟か家族みたいだな(苦笑)」
「ええ、そうですねぇw」
 風季と民宿の主は、苦笑しながらもなにか良いものを見たような心地であった。
「やっぱり、お風呂の後は牛乳だなw」
 開口一番、サンゴが言う。
「おう、俺は毎日飲んでるぜ!」
 なぜか自慢げに、エドが言った
「背を伸ばしたいからか?」
「だぁっ! 言うかコラっ!」
「ほえ? えどさんは、せをのばしたいの〜?」
「ねーねまでw」
「ちいさいから、おおきくなりたいのぉ?」
「ええい、うるさいうるーさいっ!」
 何やら雲行きが怪しくなっていたとき、たこは、ネリネの艶やかな浴衣姿(注:たこヴィジョン)に、目のやり場に困っていた。
「おいおい(苦笑)」
 風季は、微かに肩をすくめたようだった。

「そうですねw ならば卓球で勝負というのはいかがです?」

 人の好い民宿の主は、人の好い笑顔で、人の好い口調でそう言った。
 民宿の主の犬耳としっぽが、ふうわりと揺れる。
「あ、そういえば、あるって言ってたよね?」
 サンゴは、慣れない長い髪に手を当てながらいつものように言った。
 無粋な男と子どもたちには分からなかったが、それはなかなか色っぽかったりした。
「おおう、たきゅ〜するのよ〜♪」
「卓球するのぉ?」
「おっしゃ、面白そうじゃんvv」
 当事者のエドさえも、今までの話の流れを忘れて乗り気になった。
 一方たこは、片隅でぴょんぴょん跳ねる浴衣のネリネに、失神しそうになっていた。
「俺は見てるよ。牛乳まだ飲んでないしな(苦笑)」
 風季は、一行のドタバタにあきれて、コーヒー牛乳をまだ飲まないでいた。
「あ、OK。じゃあ、私達でやろうかw」
「たきゅ〜するのよ〜♪」
「早くやろうよぅ」
「はいはい、こちらですよw」
「ほらたこも、そんな所で悶えてないで行くよ?」
 なかば引きずられるようにして、たこも卓球場へと。
「ほう?」
 感心したように風季が言った。
「なかなかのモンでしょう?」
 民宿の主は自慢げに言った。
「……そうだな」
 だが、風季の目には、卓球台の脇に置かれたマッサージ椅子に釘付けになっていた。

「よしっ、じゃあ、卓球しようか!」
 エドがラケットとボールを手に構えた。
「ねーね、たきゅ〜するる〜♪」
 と言う事で、第1戦はエドvsネリネとなった。
「じゃあ、審判は私がしましょう。どうせ暇ですしねw」
 民宿の主人がそう言って、審判を買って出た。

 初心者のネリネは、最初空振りが多く、当たっても変なところに飛んでいってしまったが、段々と慣れてきたらしく、ラリーが続くようになっていた。

「この、ぴんぽんっ、って音が良いんだよねw」
 膝のキキラを撫でながら、サンゴが側のたこに同意を求める。
「がんばれネリネ殿っ! そこだっ! 今! 危ないっ!」
 たこは聞こえるような状況ではなかった。
 微笑ましいラリーの応酬に対し、千秋楽の応援のような勢いである。
「全く、ネリネのことになると(苦笑)」
 サンゴは今度はリュクスを探した。
 リュクスは、民宿の主が審判をやっているの良い事に。

 ありったけのフルーツ牛乳をどこからか持って来て、ぐびぐび飲んでいた。

「あの子、きっと大人になったらサグレウスさんみたいになるな(苦笑)」
 そういえば、風季は? と思って探すと。
「……」
 幸せそうな顔をして、マッサージ椅子で寝ていた。

「よし勝った!」
 ガッツポーズはエドである。ネリネの猛烈な追い上げに内心冷や汗をかいていたのだ。
「うにゅ〜、まけちゃったのよ〜♪」
 負けてもネリネはあまり残念そうではなかった。

「にゅ? じゃあ次はボクだよぅ」
「ならば拙者が!」

「あーあ(苦笑)」
「どうしたんです?」
 思わず溜息をついたサンゴに、民宿の主がたずねる。
「いえ、あの二人がね」
「あの人狼族の二人が?」
 かく言う民宿の主も、犬耳犬しっぽの立派な人狼族である。
「ええ、犬猿の仲なんですよw」
「はあ、そうなんですか?」
 間の抜けた返事をする、民宿の主。
「二人とも狼なんですけどねー」
 サンゴも、間の抜けたことを言った。
 キィ
 と、キキラがツッコむように鳴いた。

 稀に見る激戦であった。
 ムキになって打ち込むたこ、舞うように打ち返すリュクス。
 そんな打ち合いが長く続いた。

 勝者は、リュクスであった。
 敗者は、いつものように号泣していた。

 次の対戦。
 サンゴは、先ほどの勝者であるエドと対戦である。
「いっくぞぉ!」
「負けるかぁ!」
 気合とは裏腹に、ピンポンっと軽やかな音が響く。
 勢いにのるエドに、サンゴは意外とあっさり負けた。
「負けちったぁw」
 席に戻ったサンゴに、キキラがキィと鳴いた。
「どんまいなのよ〜、さんごちゃん♪」
 テトテトと歩み寄ったネリネが、サンゴの頭を撫でる。
「ありがとねw」
「えへへ〜♪」

 次はいよいよ決勝戦。
 エドvsリュクス。

 結論だけ言おう。
 予想外の結末であった。
 リュクスが飽きてしまったのである。

「もう眠いよぅ」
「しかたないねw」
「じゃあ、エドさんの不戦勝ですね」
 審判である民宿の主が、人の好い笑顔で言った。
 犬耳としっぽが、ふうわりと揺れた。
「あー、なんか納得いかないなぁ」
 エドは不満げである。
「まあ良いじゃないか。勝ちは勝ちだ」
 マッサージ椅子で眠っていた風季は、眠そうにそう言った。
 寝ぼけているようにも見えるが、もともと無口なのでよく分からない。
「ねーねもねむいのよ〜」
「では、夕飯を食べてさっさと寝るとしましょうか」
 たこは、リュクスに負けたショックからか、冷静さを取り戻していた。

「料理データの方も、なかなかのモンですよw」

 人の好い民宿の主は、人の好い笑顔で、人の好い口調でそう言った。
 犬耳としっぽがふうわりと揺れた。
 月夜亭のマスターと同じ人種であるからには、期待して良いはずである。

 はたして、

 色彩豊か、豪勢な海の幸と山の幸が、並んでいた。
 味を感じる瑠璃がいないのが悔やまれた。
 一行でただ一人、味を感じるネリネは、おいしいのよ〜♪ を連発していた。

「まんぷくなのよ〜♪」
 満ち足りた顔で、ネリネはぽてっと布団に横になった。
 隣の部屋から、たことリュクスの言い争いが聞こえる。
 大方、リュクスがネリネと一緒に寝ると言っているのだろう。
 エドが止めようとしているのか、時折たことリュクス以外の声が聞こえる。
 風季はきっと苦笑いして黙っているだろうと、サンゴは思った。
「さて、もう寝ようか?」
 キィ、とキキラは返事をしたが、ネリネは返事をしなかった。
「ネリネ?」
 見れば、ネリネはすやすやと寝ているのだった。
「疲れちゃったかな? 今日はいろいろあったからなぁ?」
 そっと抱き上げると、ちゃんと布団に寝かせる。
 その前髪をかき分けると、むにゃむにゃと返事のような寝言を言った。
 幸せそうな寝顔であった。
「おやすみネリネw」

 隣の部屋からは、たことリュクスの口論がまだ続いていた。

おしまい


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