晴れ渡った青空の下、波のない穏やかな海に小さな漁船が浮かんでいた
「大将。釣れやせんね」
「しかたねぇ。もうちっと沖へ出るか。しかしなぁ」
それでも、大将と呼ばれた男は、逡巡していた。仲間に大見得を切った手前、手ぶらで帰るのは癪だ。しかし、これ以上沖へ出ると、蒼竜公の指定している危険海域に侵入することになる。ふと、大将は思い出したように船室に向かって叫んだ。
「おい、影探知機(シャドウサーチャー)の具合はどうでぇ?」
シャドウサーチャー。見た目は魚群探知機に似ている。『気』の流れを精神感応物質を媒介にして数値化し、『影』の存在や、その出現確率を地図の上に出力する。数十年前に朱雀で開発されて以来、山の猟師や海の漁師など、人の領域ならざるを生活空間とする者達の必携ツールとなっている。
「レベル2、まあまあです」
船内からの応答。
レベル2 ― 半径十キロ以内に存在なし。六時間以内の出現確率五パーセント。船の衝突事故の確率より低い。が、ゼロではない。大将はなぜかそれが引っかかった。。いつもなら、レベル2は問題ない値だ。海に出ているなら、常に危険はゼロではない。
「んー。よし、行くか」
まあ、大丈夫だろう。今までこの海域で『出た』と言う話は聞かないしな。
大将は、自分にそう言い聞かせた。
−数分後−
移動したポイントは大当たりだった。普段は海の底深く潜んでいて、めったにつれないような魚が、入れ食い状態で釣れる。危険海域で、ほとんど人が来ないためだろう。
大将の目の前が、一瞬真っ白になった。めまいか、とふるふる頭を振る。視界はすぐに戻った。何の事はない、濃い霧の塊が目の前を通りすぎただけだった。
いつから出ていたのだろう。あれほど晴れていたはずなのに、船の右側、東の方角から、大きな霧の白い塊が迫りつつあった。
「なんか霧がでてきたな。おい。そっちは?」
「はい。ガンガン釣れます」
見当はずれの答えに、がくっとこける。気を取りなおして自分の目で確認すると、反対側はいまだに快晴だ。
「霧が来る前に、帰るか」
「よしよしっ、また来たぞ」
海の常識からすると、霧に包まれる前に帰るべきだ。かといって、こんな絶好のポイントを前にして、まだまだこれからと言うときに帰るのももったいない。
「ん、おおっ、引いてるぞ。これはデカイっ」
大将の釣竿にヒットがあったことで、大将は思考を中断した。
まあ、もうしばらくは大丈夫だろう。
そう、自分に言い聞かせて。
ドゴォン!
「おいっ、なんだ?」
「岩礁です! 畜生、船底をやられてますっ!」
「まさか?! レーダーは?」
「レーダーには映ってないんです!」
「大将、影探知機に反応!レベル5です!」
「なんだと!近いぞ。探せ!」
「肉眼で確認できません!」
「ソナー(索敵能力)も反応無し」
「そんなバカな!レベル5なら、すぐ近くにいるはずだぞっ」
そう言って、周りを見まわした。いつのまにか、船は霧に包まれていた。
「周りの霧が視界を遮ってるのか…。だが、ソナーでも見つからないなんて、聞いたことがねぇしな」
霧が能力を制限しているのか? そんな特殊な霧が存在するのだろうか?
「霧……異常な霧……、まさか!」
数日後、海洋巡視艇により、船の残骸と乗組員全員の亡骸が発見された…。
月明かりが穏やかな水面を照らす、美しい夜である。
蒼竜公領南部、流尊の東の沖30キロ。謎の事故が相次ぐ海域。
海上を二つの影が移動していた。
一つは朱雀製の水上バイク。もう一つは青い機兵であった。両者とも水上を『滑って』いる。
「おい。本当に『影』なんだろうな?」
バイクから男の声が響く。
「だから。何度も言ってるでしょう。南崎さん」
機兵から返事がある。少し感じの若い男の声だ。
「わかったわかった」
しぶしぶ返事をする男―南崎 純(なんざき じゅん)。
かれは今は民間の対影専門の賞金稼ぎ(シャドウ・ハンター)をしている。
生まれは久遠より東の国らしいが、誰も知らない。ただ、風を操り、またその能力が高いことから、その話は確かなようだ。
一方機兵に乗る男―加藤 典昭(かとう のりあき)。蒼竜公直属の蒼月衆の一員である。
朱雀大学出のエリートで、やや理論っぽいところがあるメガネ君だが、機兵の扱いはなかなかである。
また南崎とは旧友で、いつも彼を蒼月衆に誘っている。しかし、
「俺は固いのは嫌いでな」
の一言で蹴られてしまうのが、いつものことだ。
「しかしこれだけ事故が多発してるのに、蒼月衆はおめぇしか来てないのか?」
やや不服そうに南崎が言う。
「仕方ないですよ。あいつぐ影の大量発生に蒼月衆は主要都市の防衛でいっぱいいっぱいなんですから」
「まあ、そうだな。だから俺の食い扶持があるがね」
いささか皮肉を吐く。これも毎度のことなのだろう、加藤はさして気にしない様子も無い。
「しかし、最近、影が多すぎませんか?」
「たしかにな。俺のところも忙しくなってる。しかもだいぶ強くなってきてやがるしな」
名うてのシャドウ・ハンターが、返り討ちに会って重傷を負ったと言う話も聞く
「念のためだ。もう一度今回の概要を説明してくれ」
仕事の話となると、緊張感が出てくる。
「はい。ここ一ヶ月の間に、この海域で海難事故が七件連続で起こっているのです。全く何も無いところで。なにより、七件の事故のうち、何件かは救難信号で『影』の存在を伝えています」
「だがよ。ここらの船はみな影探知機(シャドウサーチャー)がついてるはずだろ? けっこうな武装もしてるはずだぜ」
「確かにそうです。でも実際に事故は起こっているのです」
「ふーむ」
それでもなお、腑に落ちない様子の南崎。
「あと、不思議なことに、事故の地点を結ぶと、ほら、あの島に向かっているんですよ」
青い機兵のごつい指が指し示す方角には、遠く島影がみえる。
「あそこか? あそこは確か灯台のあるだけの人工島だぜ?」
「よくご存知で。ま、たまたまかもしれないですが。とにかく、影である確率が高いので、依頼したんです」
「わかったよ。どれ、最後の事件の現場に行ってみようか」
2機は島の沖へ出る。
「なんだ、霧か?」
島よりわずか1,2キロで2機は巨大な霧に包まれていた。
「この辺はいい漁場なんですがね、こんな風に霧がでるからあまり近寄らないんですよ。あの灯台はこの付近の海域を霧から守るためのものなんですよ」
二人の会話の間にも、霧が濃く深くなっていく。おかしい、この霧は何かおかしい。南崎の本能が危険を感じていた。
「加藤、気をつけろ」
緊張した口調で南崎は、加藤に言った。
「どうしました?まだ影探知機には反応無いですよ」
「そんなのあてになるか。カンだよ。長年のな」
単なる軽口とは異なる、その鋭さに加藤も事態の異常さを悟った。
その時、
ぐぎゃああああ
巨大な声が響く。
「なっ!影探知機、レベル4!」
「来るぞ!」
霧の奥から有象無象の影の群れが急速に近づいてくるのが分かった。
「カモメ型7、魚型8、半魚人型5、幽霊船型1、計21!」
海の影はもっぱら海洋生物型が多い。沈没した船乗り達の念か船型もある。
「お前は援護しながら“影の長”を探ってろ。ぬかんじゃあねぇぞ」
「了解っ!」
アクセルをふかし、南崎が前にでる。
「お手並み拝見、といくか」
水上バイクの先端に備え付けられた大口径マシンガンで攻撃する。
ぐああっ
飛びかかって来ようとした鋭い牙の魚型4体と、不気味な半魚人型1体に命中する。あとは皆素早い動きでかわして突っ込んでくる。幽霊船型は離れたまま動かない。
「やっぱ鳥は早いよな」
すばやくカモメ型が4体突っ込む。バイクに急制動をかけ、やり過ごした後フルアクセルで引き離す。
後ろからライフルの弾が飛び、攻撃に失敗し、つんのめる形になった4体を貫く。
「やるな」
「私を忘れてもらっては困ります」
見えはしないのに、挑発するようにメガネを押し上げる加藤。
半魚人が大きい波を放つ。2機は二つに分かれて回避する。
「いくぜ!」
足でバイクを操りつつ立ち上がる。目の前にはもう1体の半魚人型の大波。
「そらよっ!」
両手を払う。縦の風が走り、波を切り裂き影を祓う。2つになった波から魚型が4体飛び出す。
「へえ」
落ちついている。両手をクロスさせる。まわりに小さい竜巻がおき、突っ込んできた4体を飲みこむ。
「おい。後何体だ?」
南崎が叫ぶ。
「あと7体です」
「解析は?」
「数が多くて……」
「さっさとしろ!」
「了解ですっ!」
そういうそばからカモメ型が3体突っ込んでくる。
「邪魔しないでもらいたい」
機兵がサーベルをとりだして切り裂く。1体倒しきれず回避する。
「ちっ」
肩にわずかにくらう。
「カンで勝負か」
南崎は踏み込む。
「援護しろ!」
向かってくるカモメ型1体、半魚人型3体をかわす。追ってくる4体。
「お前達の相手は私です」
青き機兵が割り込む。
「よし、いいぞ」
目の前には船型の影。大きさは20メートルくらいか。
ガタン
音がして、船から砲台が出てくる。そこから光弾が降り注ぐ。バイクはその合間を潜り抜け、正面に回り込む。
「いくぜ。こいつが主砲だ」
バイクの先がわれると砲台が現れた。ガクンと言う反動と共に光の帯がほとばしる。しかし相手は悠然と障壁を展開する。
光の帯はぶつかり、散る。
「ありがとよ。避けてくれなくて」
南崎の両手は、真横に突き出されていた。風が吹く。壁の脇を通りぬけるようにして、本体に至る。
「そらよっ!」
何かを引っ張るような感じで、両腕を胸の前に持ってくる。影は風に四散した。
そこへ加藤が追いついてきた。
「どうだ?」
「あの4体は始末しました。しかし・・」
「どうした?」
「『影の長』がいません」
声には動揺の色がうかがえる。
「なんですと?」
「ですから、あの船型では小さいのです。あれではこれだけの数を操れません」
「どういうことだ?」
「さあ?」
素っ頓狂な応答に苦笑しようとした、その時だった。南崎は感じたのだ。激しい悪寒を。
「やばい」
「はあ?」
「いいから。あの島に逃げ込むぞ!」
声と同時に、霧の奥が淡く光る。
「前方に高エネルギー反応! 影探知機レベル5!」
「おいでなすったな。それ逃げろっ!」
霧の奥から光の帯が放たれる。間一髪でかわすと、そのまま2機は島の方向へ全速力で飛んだ。
「な、なんです?あれは」
加藤の声に驚きと恐怖の色が映る。
「今は後だ!」
またも攻撃。
「うぐっ」
機兵がかわしきれず左肩に当たる。
「な、なんて威力!」
耐影等の装甲を貫き、すでに左肩が動かない。
「見ろ、灯台だ!」
目の前に灯台の光が差し込む。すると霧の追跡速度が落ち、攻撃も止んだ。そのすきに両者は島へとたどり着く。
「あれはなんなんです?」
着陸した機兵の中から、加藤が尋ねる。
「あれが今回一連の事故の元凶。つまり『影の長』だ」
静かに南崎は語る。
「まさかっ!? だいたい大きすぎますよ」
「仕方ねぇだろう。そう考えるのが妥当だ。あの霧が船の舵を狂わして、岩礁にぶつけていたのさ」
「しかし、私たちの時は普通の影が来ましたよ」
「おそらく侵入してきたのが船でなかったからだろう。空を飛んで、回避されるかもしれないから、影を仕向けた」
そして、雑魚では歯が立たないと見て、自分が出てきた。
「朧霞(おぼろがすみ)……」
加藤がつぶやく。
「なんだ? そりゃ」
「この辺の伝承です。古くからこの辺はよく霧が出ました。それに惑わされて、多くの船が座礁したらしいです。月すら隠す靄(もや)。その靄に隠れて忍び寄る怪物が朧霞」
「なーるほど。あれは船乗りの恐怖が集まったもんってわけだ。姿の想像できない怪物、その象徴である靄そのものに実体化したんだな。なら説明がつく」
「何がです?」
「奴は灯台の光を受け、ひるんだ。自分達が欲しいと願った海の道標だからな。海への恐怖が無くなれば、奴は存在できなくなる」
うっすらと視界がぼやけ始める。薄く白い靄が、静かに近づく。静かに、静かに。
「灯台は奴の希望でもあり、絶望でもある」
「じゃあほおっておけば…」
「ああ。あらゆる海運の要所は灯台と共に壊滅さ。だからここで叩く。今、な」
厳しい面差しで、南崎は沖を見る。靄は視界の全てを完全に覆っていた。
「囲まれたか」
「どうします?」
「核を狙うしかないだろう。この霧はまあ奴のほんの一部だ。攻撃しても埒があかない」
「じゃ、どうやって核を狙うんです? 探知機で探れないのは実証済み……」
加藤の声が終わら無いうちに、白い靄の向こうから光が放たれた。
ドゴォォォォン!
光の帯は、灯台をなめるように破壊し尽くした。潮風で風化していく岩の如く、砕けるのではなく、さらさらと『崩れる』。
「なるほど。我に勝機ありだな」
南崎は、にやっ、とすると水上バイクに飛び乗った。
「どうするんです?」
「まあ任せな。お前さんは救援隊でも呼んでろよ」
真っ白な沖を見つめたまま、南崎は言い捨てる。
「しかし……」
「今のお前さんは手負いだ。面倒見てる余裕はねぇ」
声に、いつもの余裕はなかった。少しの無言の後、
「わかりました。どうぞご無事で」
「さっさと終わらせて、飯でも食いに行こうぜ」
心配そうな加藤に対して、南崎は明るく言った。
「もちろん、お前のおごりでな」
水上バイクが沖に出ると、朧霞はその動きを追うように、徐々に西へと移動していた。
「ほいほい。こっちだぜ」
すうと息を吐く。気を集中する。まわりの気の流れを感じる。
「行きますか」
バイクのスイッチをおすと、後ろの椅子のランプが光りくるくる回る。非常用の警報装置だ。さながら灯台である。
霧の移動が止まる。沈黙が訪れる。長い長いそれは張り詰めた緊張でもある。
南崎の考えはこうだ。
あれほどの威力の光線を撃つにはそれなりの器が必要だ。さっきの船で言ったら『砲台の形をした』部分。しかし、この朧霞にはそれらしい部分が無い。だとしたら、単純にもっとも『力』が集まる場所、つまり核から撃ち出していると考えるのが自然だ。要は発射点を狙えばいい。一発撃たせて方角が分かれば、後は簡単だ。
風が動く。いや、乱されている。圧倒的妖気に。
「くる!」
まばゆい閃光が走る。南崎の乗るバイクが間一髪急旋回でかわす。避けるのと同時に、両手オーケストラの指揮者のように振った。この間、水上バイクの操縦は両足で行っている。光の帯が消えないうちに、両手から発した真空の刃が光の流れを逆流する。
さすがにバランスを崩した南崎が、海に投げ出されるのと、命中は同時だった。
ぐぉぉぉぉん
霧が振動した。かすかに霧が引いていくのが分かった。
「はぁ、はぁ。……やったか?」
確かに霧は晴れていく。だがそれは消滅では無かった。。
「ちぃ」
歯軋りする。だが口惜しがっている暇はない。なんとか右手一本でバイクのへりにしがみついていた南崎は、渾身の力でバイクの上に這い上がった。そうしているうちにも、霧が一箇所に集まって、球を形作っていく。
「やばい」
確かにヤバイ。風が狂ったような動きをし始めている。球体から光の帯が四方八方に『乱射』された。バイクはジグザグにかわす。さながらミラーボールとダンサーである。
「くそう。霧の目隠しが役に立たねぇからって、今度は攻撃重視の無差別乱射かよ」
すかさず反撃に移ろうとした刹那、南崎は海中の黒い影に気づいて慌ててバイクを翻した。なんと海からぽこ、ぽこと岩が浮かび出てくる。
「嘘だろっ? おい、それなんか間違ってねぇーか?」
南崎の訴えを却下もしくは無視して、岩は飛んでくる。更に悪いことには、その岩を貫き、光線も飛んでくる。南崎は乱れに乱れる風の動きに乗り、かわす。いくら熟練のボクサーでも、舞い散る木の葉にパンチを当てることはできない。気を落ち着かせ、狙う、外すことは有り得ない。
それも、撃てればの話で、実際には回避で精一杯、なかなか撃てない。
「やっぱ、さっき仕留められなかったのは痛いな。まじ、やばいぜ」
ただでさえ、無茶苦茶な回避を繰り返している。その上に、左手を構えたまま、右手だけで水上バイクを操っているのだ。予想以上の消耗に息が切れる。このままでは勝負は見えている。
「仕方ねぇ。真っ向勝負といくかっ!」
バイクの進路を霧の中心部に向ける。全速力で突っ込んでいくと、冷蔵庫ぐらいの岩が飛んで来た。あまりに状況は悪かった。選択肢は二つ。岩にぶつかって砕け散るか、岩を避けて光線のつゆと消えるか。
「食らぇい!」
南崎はそのどちらも選ばなかった。残りの『力』全てを真空の刃に変え、バイクの前面に展開する。岩は粉みじんに切り刻まれ、直後に飛んできた光線は、真空断面の屈折作用で無関係の方向に乱反射させられる。それでも、全てが当たらないわけではない。バイクの外殻、南崎の鍛え上げられた筋肉を、光のカケラが切り裂いていく。南崎は構わずフルスロットルで突っ込んだ。真空の刃が、不規則な多面体の核に食い込む。
「後一歩かよ……」
風は核をえぐった。だが、未だ致命傷には至っていない。核を護るように正面から一際大きな岩が浮かび上がった。かわすだけの余裕は、もう無かった。
飛んでくる岩がスローモーションに見えた。
「ああ、死ぬときには全てがゆっくり見えるって話があったな」
そんなことが考えられるほど、頭は冷静だった。
「加藤の奴にあれほど大口叩いといて、あっけねぇなあ」
大声で笑いたくなった、が、見ている映像がスローモーションでも、それに応じて自分の体が機敏に動くわけではない。実際には数秒のことだ。せいぜい、口の端を歪める程度のことしかできない。
「なに?」
岩は南崎には当たらなかった。後ろから飛んできて、岩に向かっていく弾丸の嵐が、やはりスローで見えた。岩を砕き、核に至る。弾丸の先頭から光が生じ、続いて弾丸がゆっくりと弾ける。爆発。爆炎。硝煙。爆風。二発三発と撃ち込まれた弾丸に、核が崩壊していく。
断末魔の悲鳴のように光線が乱れ飛んだ。青い機兵が南崎のバイクを抱えるようにして、かわす。避け損ねた光に右足が消える。
「とどめです!」
ライフルが火を吹く。力の全てを使い果たしたのだろう。核は消滅した。
「大丈夫ですか?南崎さん?」
機兵の外部スピーカーから、明るい加藤の声がする。
「やれやれ。おいしいところを持ってったな」
「言っときますケド、ちゃんと救援隊を呼んでから来たんですからね」
「ああ、分かったよ。もう疲れた。救援隊が来るまで、あの島で休もうじゃないか。あの、なんもない希望の島でよ。もう、希望のシンボルは無いけどな」
その後、やってきた救援隊につれられ、2人の男は、悪夢の海をあとにした・…。
第27次 影の長の生態報告書
影名:朧霞
形態:大型の霧状
付随する影:海洋生物型
行動パターン:船を包み込み、座礁させる。灯台を壊す。
攻撃方法:核からの濃縮光線、付近の物質の浮遊攻撃
殲滅方法:核の光線の発射元を攻撃
今回のこの影の長の特徴として、きわめて巨大なことがあげられ、従来の考えを覆すものである。現在影の数は爆発的に増えており、
今後もこのような新種、大型化、強大化が考えられる。兵器開発の促進や結界強化が望まれる。なお、今回は報告者とある協力者にて対象を殲滅した。
第2999蒼竜節 9/10
蒼月衆特級遊撃隊員 加藤 典昭