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第21話「旧友にして戦友、再会す」





 謎の美少年、リューザキ・ユーキの正体を探るべく、弥陀の街で麗子と忍のコンビが情報収集を行った結果として分かったことは、以下のようなことだった。

・リューザキ・ユーキが弥陀の街に現れたのは先の白虎公側と竜帝側の戦闘の後
・どうやら白虎公の居城に住んでいるらしい
・もっぱら、人々と触れ合い、ファンサービス(?)をしている
・最初は見向きもされなかったが、最近になって大人気

 それだけ見ると、竜崎勇気の名を騙り何がしたいのか、よく分からないというのが正直なところだ。
 だが、麗子には思い当たることがあった。
 拠点にした三流ホテルの一室で、情報の分析を行っていた麗子のところへ、情報収集に出かけていた忍が駆け込んできた時には、麗子には誰のどんな目論見なのか、大体分かっていた。
 それはさておき、忍が駆け込んできた理由は、

「リューザキ・ユーキがテレビ会見を開くんだって!」

 予想通りの展開だった。それに、水晶テレビで生中継されるから、出向く必要はない。だが、念のため、麗子はその会場に向かうことにした。
「行くわよ?」
「行くんだったら、ちゃんと変装しないとダメだよ麗子!」
「私はこれでいいのっ!」
「有名人なんだから、ダメだってっ!」
「ばれても問題ないでしょう?」
「大アリだよ!」
 そんな押し問答があり、結局麗子は忍に押し切られてしまったのだった。
 で、どんな格好になったかといえば、地味ぃな報道関係のアシスタントだと思ってくれれば良い。それも、麗子の嫌いな地味ぃな紺系統のスーツなのだから、頑固な麗子を説得した忍のすごさが分かろうというものだ。
 それはまた、麗子がどれだけ忍のことを信頼し、重要視しているかということの裏返しでもある。
 なにより、忍は変装などに関してはプロなのだから、その意見を聡明な麗子が無視し続ける方が無理という考え方もできよう。
 報道関係者としての身分は、忍が簡単に用意してくれた。

 会見は、久遠全土に向けて、強制的に放送された。
 と言うのも、非常事態用に常時確保されている回線をそんな用途に使う奴がいようとは、誰も予想していなかったからだ。
 内容は、麗子の考えていた通りのものだった。
「やあ、エブリワン。みんなの救世主、リューザキ・ユーキからのメッセージだよ!」
 いかにも軽薄な様子で、リューザキ・ユーキは続けた。
「今回の戦い、みんなはどっちが正しいと思う? 僕はね、ミスター白虎公が正しいと思うんだ。だってそうだろ? あの激しい影との戦いの中で、竜帝ジエイ・ロスが後継者を選んでいる余裕なんてなかったはずだし、よしんば選んでいたとしても、それをどさくさに紛れて捻じ曲げることは容易だったはず。なにより、あの戦いで全然役に立たなかった星雨真羅って人を選ぶなんてナンセンスだよ。僕は最前線で戦ったからそれがよく分かるんだ」
 予想通り過ぎる言葉に、かえって寒気がしてくる麗子だった。
「本当に勇気様じゃないのかなぁ?」
 この期に及んで、まだ疑っている忍。
「だから、さ。みんなに立ち上がって欲しいんだ。偽者の竜帝をやっつけて、本当に相応しい竜帝を立てようじゃないか? 幸い、戦況は白虎公さんたちが有利だからね。みんなが立ち上がれば、これ以上の血を流さなくても、偽者の竜帝は自分から負けを認めてくれると思うんだよ」
 あたかも、自分が思いついたことのように喋るリューザキ・ユーキ。
「人間同士の戦いなんて、本当はやっちゃいけないものだよね。人間同士は本来、助け合うべきものだ。それは白虎公さんもよーく分かってる。分かってても、戦わなきゃいけない原因を作ったのはだーれかな?」
 子ども向け番組の司会者のような口調で、テレビの前の人々に呼びかけるリューザキ・ユーキ。
「もう分かったよね? みんなが今、何をすべきか。それは……」
 それ以上は聞くに堪えない、と、麗子は会見場を後にした。後ろ髪引かれる思いの忍の首根っこを捕まえて、引きずるようにして。
「民衆をバカにしているわ」
 人気のない場所まで来るなり、麗子は言った。
「もっとも、私も他人のことをとやかく言える立場じゃないけど」
 多少自嘲気味で苦笑した。
「それで、麗子、何か分かったの?」
 いつもなら、自分で情報分析をしているはずの忍は、状況が状況だけに考えることを放棄していた。
「薄々は気づいてたけど、さっきの会見で正体見たり、ってところかしらね」
「リューザキ・ユーキの正体が分かったの!?」
「問題は、私たちだけが正体を見破っても、なんの解決にもならないってことかしらね」
「ねぇ、正体はなんなの?」
「アレを始末するのは簡単だけど、アレは上手く死ぬことができるから、それを上手く利用されてしまう可能性があるわ」
「アレって何?なんなの?」
「やっぱり、ここはアイツを探し出すしかないかしら?」
「ねぇってば!」
















 天龍殿にほどちかい空の上。
「ロバート・ウォルフ」
 そこには、白金の鎧で穏やかに微笑む王と、
「久しいな若造」
 サングラスに黒衣の神官がいた。
「あらま、第3代四聖霊獣王陛下と第3代三世法師様じゃあありませんか」
 声をかけられたロバートは、大して驚いた風でもなく応じた。
「今は恐れ多くも天竜帝と言うらしいな」
 サングラスの神官が、忌々しそうに言った。
「二百華巡が過ぎたのだ、伝承される中で変わるものもあろう」
 苦笑いをしながら、白い王は言った。
「お目覚めになって早々にご挨拶いただけるとは光栄ですね」
「この時代で知っている人間は、臥禅とお前ぐらいのものだからな」
「リュートさんと美弥さんがいるじゃないですか」
「リュートは動き回りすぎで、どこにいるか見当がつかん。美弥は、あいつは優しいから、きっとできるだけ表に出たくないに違いない」
「六竜の皆さんもいるでしょう?」
「それとて、昔の記憶を持っている者はおるまい?」
「どうでしょうね? 事ここに至っては、記憶を取り戻していてもおかしくはないんじゃないでしょうか」
「それは……」
 白い王はそこで言葉に詰まった。
「それはたいそうむごいことだ」
 黒い神官がその後を受けて言った。
「できることなら、彼らには、今の時代の人間としての生をまっとうしてもらいたいと思っている」
「お二人は、優しいですね。自分たちのような境遇の者は自分たちだけで十分、ですか?」
「それは皮肉か?」
 鋭い視線をロバートに送りながら三世法師、星顕は言った。
「怖いなぁ。普通に感心してるだけですよぅ」
「お前には、世界がどう見えてるのだろうな」
 憐れむような表情で、四聖霊獣王、旺真が言った。
「僕には何も見えてませんよ。もし、少しでも何かが見えていたとしたら、正気ではいられませんからね」
 それは、いつものロバートらしからぬ、寂しそうな顔だった。
「凱羅の血を受け継ぐ西方の王か」
 白い王は、自分の弟の血を受け継ぐ王の乗った空飛ぶ舟を、目を細めて見やった。
「レリーグめ、やはり仕掛けてきおったな」
 サングラスの位置を直しながら、神官は苦々しげに言った。
「まあ、西方に事実上の追放処分にしなきゃ、久遠が大変なことになってましたからね」
「聡明な凱羅であったが、生来大人しすぎたのかもしれん。レリーグを抑え切れなかったのだろうな」
 白い王は小さなため息をついた。
「最悪の事態として、予期していたからこそ、我々は今ここにいるわけだが」
「シン、言っても仕方ありませんよ」
「セイ、分かっているさ」
「亜空間ではなく、現実空間での光竜との戦闘となりますと、この荒野は今度は砂漠にでもなってしまうんでしょうかね?」
「お前はいつも他人事だな」
 神官が多少批難するように言う。
「持ち味なもんで」
 ロバートに悪びれた所はない。
「ロバートは言上げ封じのために、ここしばらくこの場から動けないでいるのだ。それをねぎらいに来たのではなかったのか?」
「そうでしたな」
「ねぎらいついでに、弟さんのご子孫を説得してくれませんかね?」
「天照と戦えと?」
「いえいえ、あくまで説得ですよ。平和的に」
「我らの素性を明かした所で、信じはしまい」
「だとしたら、戦って分からせるほかはあるまい。だが、天照を持った若き光の王、それも光竜の加護を受けた者と、覚醒して間もない我らでは、勝負は分からんぞ?」
「またまた。たった三人で神竜と戦った方のセリフとも思えませんよ?」
「お前を入れれば四人だろうに」
「僕は時空を固定してただけですよ。いわば傍観者です」
「だが、その能力が無ければ、人の身で神竜と戦うなど出来はしなかっただろう」
「その戦いにしたって」
 ロバートは、そこで躊躇うように言葉を切った。

「元々は僕が生まれたせいじゃないですか」
















 リューザキ・ユーキの会見の様子を、たまたま目にした竜崎勇気は、口に含んでいたお茶を盛大に吹き出していた。
「おい、お前を無闇に男前にした奴が映ってるぞ?」
 リュート・ブレイブハートの指摘に、茶屋の隅にあった古い水晶テレビを見やった勇気は、そこにおぞましい自分の姿を見たのだった。
「なんじゃこりゃぁ!」
「しっ! お客さん黙ってて! 救世主様のお言葉なんだから!」
 茶屋の主人である小柄なお婆さんは、手を合わせてテレビに見入っていた。
「やられたな。これは早急になんとかしないと、久遠がひっくり返るぞ?」
「だけど、こいつ、俺より救世主っぽいよ!?」
「本物が弱気になってどうする!」
「お客さん! いい加減にしないと出てってもらうよ!」
「すみません……」
 お婆さんの様子を見るに、どうやら、久遠全土のほとんどの人が「救世主の言葉」を信じてしまったらしい。
「言上げとまではいかないが、それに類似した効果はあるだろうな。なんとかしないといかんぞ」
 リュートが小声で言うと、
「なんとかするって言ったって、どうすりゃ良いのさ?」
 勇気も小声で答えた。
「俺もお前も、こういうのは苦手だからな。だが、お前と違って経験豊富な俺は、こういう時どうすれば良いのかを知っている」
「で、どうするのさ?」
「こういうのが得意な奴の知恵を借りるのさ」
「それって」
「シンとセイは今は無理だろうからな。あのお嬢ちゃん二人が良いだろう」
「うーん」
「その気持ちは分かる。あの二人は俺も苦手だ」
 勇気とリュートは、あの二人が行動を共にしていると、なぜか確信していた。
「でも、どうやってあの二人を探すのさ?」
「人気のないところで、全力の一撃を空に放てば良い。向こうもきっと俺たちを探してるはずだからな」
「乱暴だなぁ」
「他に何か良い方法があるならそれでも良いが?」
「分かったよ。やりゃあ良いんだろ?」

 そして、大地から空へ、特大の稲妻が走ったのだった。




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