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第14話「風のシノビ、食い物に釣られる」





「……」




絶句。
本来は、
『話の途中で、言葉に詰まる』
ことを言うが、
流用され、
『あまりの事に言葉も無い』
という意味に使われることもある。辞書に拠れば、この流用は、あまりよろしくないと言うことが分かる。皆さん、お手もとの国語辞典で確かめてみよう。漢詩の形式(○言絶句と言うヤツ)の意味の次に載っているハズだ!








と、言うことで。

















「……、なんなんだ、これは?」
 銀髪の髪をなびかせ、同業者の集団を追っていたフレッドは、摩訶不思議な光景を目の当たりにしていた。
 近づいて、そっと触れてみる。
 プルン、とした感触。しかし、手を離そうとすると、これが離れてくれない。それどころか、徐々に手が引きずり込まれていく。
「……」
 意思を持った『トリモチ』のようなもの。それにとり込まれ、半数の男達は身動きが取れなくなっていた。クールな暗殺者も、トリモチだるまとなっては、どうしようもない。フレッドは、軽く冷気を放ち、手に触れた部分を凍らせて、砕いた。自由になった手を、服でぬぐう。
「……」
 そのトリモチが発射されたらしいほうに、目を向ける。叢の中に、それはあるらしかった。近くに人の気配が無いのが気になる。
「……」
 その時、その叢に微かな動きが現れた。
 迷うことなく槍をそちらに向けて振る。氷の刃が、そこにあったモノを破壊した。
「……」
 『トリモチ君三百七十七号』と書かれた、鉄板のかけらが、爆発と共に偶然にもの足元に転がり出る。








―――見なかったことにしよう。
 それは、彼にしては、珍しく弱気な思考と言えるものだった。

















ヒュルルルルルル




「……」
 彼は、暗殺稼業を始めて以来、初めて仕事を投げ出したくなっていた。仕方なく、用心しながら、先ほどの攻撃(?)で生き残った人間達を追う。
「……」
 そこで、彼はまたも珍妙な光景を見てしまった。
 地面が丸く切り取られ、それが地面から生えた(?)巨大なバネの先にくっついて、宙を舞っている。その裏側は金属で出来ており、ふちの所に『打ち上げ君七百八改』の文字があった。




ドス―ン




 もし、漫画であれば、顔に無数の縦線が入っているハズのフレッドの前に、予想通りに空中散歩をしてきた黒づくめの男三人が、落っこちてきた。とてつもない高さに打ち上げられたらしく、受身をとっても気休めでしかない。全身を強打し、気絶してしまう。死んではいない。絶妙な半殺しである。




「……」
 またも、見なかったことにして、先を急ぐ。




 その後、彼は、『スーパー捕獲網君』と『落とし穴君LLサイズ』に遭遇したが、それぞれ即座に記憶から抹消したのだった。
(ちなみに、彼がお目にかからなかった、蒼竜公公邸爆破装置は『自爆君壱号』である。名前の通り、まさしく試作品であった。もし、使うことがあったなら、恐らくその場にいた人間全員(セイも含む)が、仲良く昇天したことだろう。)

















「片付いたな」
 全てのランプが消えたのを確認して、セイは立ちあがった。
「見に行くんですね?」
 好奇心を抑えきれなくなって、蛇の生殺し状態だったシンが、たまらず問うた。
「なんだ、お前も行くのか? 俺の『出来そこないのガラクタ』を見に?」
 普段、言われ続けている悪口を逆手に取るセイ。詰まるシン。
「わ、私は別に……」
 シンが苦しい弁解を試みようとしたとき、セイはスイッチボックスの異変に気づいた。
「あれ? れれれ?」
「ん、どうしました?」
「レッドランプが点灯してる」
 言われてシンも、スイッチボックスの方を向く。一番端のランプが赤々と点っているのだ。
「と、言うことは、つまり?」
「レッドゾーン、つまりこの屋敷内に、お客さんが辿り着いたと言うことだ!!」
「威張っていうことですか!!!」
 首を絞めにかかるシン。
「ぐぅ、シンやめろぉ、い、まは、そん、な場合じゃな、いだろがっ」
「そうでした」
 あっさり手を緩める。勿論、許したわけではない。
「その通りだよ」
 いきなり、少年のような声が、天井から降ってきた。振り仰ぐと、紫のシノビ装束をまとった小柄な人物が、天井に逆さに立っている。が、シンにもセイにも、取り乱すようなことは無い。
「霧狼(むろう)君ですか」
「もうっ、人が苦労してるときに、何漫才なんかしてるのさ!」
「苦労?」
「人に、寝ずの番をさせといて、自分達は宴会だもんな。ボク、やっぱり来なきゃ良かった」
 今一つ、状況がつかめないでいたシンだったが、ようやく理解した。
 何故かと言うと、
「なんだ、はっ、はなせっ!」
 セイが、そろ〜、っとその場から離れようとしたからである。その白衣の襟をむんずとつかみ、引き寄せる。
 男二人の鼻の頭が、擦れあわんばかりに接近した。
「セイ。何度言ったら分かるんです」
「な、なんのことかな?」
「しらばっくれるんじゃありませんよ! 霧狼君、この男に一体何をもらう約束だったかは知りませんが、その倍を出します。おっしゃいなさい」
 その言葉に、先ほどから逆さの人物、霧狼忍(むろう・しのぶ)は、ひまわりの如き満面の笑みになった。と言っても、シノビ装束の常で、目の部分しか見えていないのだが。
「じゃ、チョコパフェ四つね!」
 内心、食いモンかい!、とツッコミを入れつつ、報酬を約束し、事情説明を求めた。無論、セイの白衣をつかんだ手を放してはいない。
「セイさんにね、今夜あたり、侵入者がいるから、見張っててってお願いされたんだ、ボク」
 それを聞くや否や、シンは再び、セイを己の鼻先に引き寄せる。
「セイ! 霧狼君は、大事なお客様なのですよ! 君のくだらない発明の手伝いなんかさせないで下さい!!!」
「そんなこと言ったって、お前! 人が侵入してるかどうか調べる装置って、面倒なんだぞ」
「だからと言って、霧狼君にその役をやってもらっていいわけないでしょう! 君、発明家なら、そう言うモノこそ発明なさい!」
「どうでも良いケドさ」
 再びヒートアップしそうになる二人の舌戦に、霧狼君が水をさす。
「なんです?」
「二人の後ろ」
「「えっ?」」
 振り向いた迷コンビの目線の向こうには、長い槍を持った銀髪の青年の姿があった。
「悪いが、死んでもらう」
 精神的に疲労気味の死神は告げた。

















「マズイことになって来ましたね。勇気君と麗子さんは夢の中、霧狼君では少々役不足」
 その時、屋根の上で、ある人物がさも愉快そうに独り言。
「アレをはずしますか? 司令、参謀」

















「ありゃま。これは東間君、快挙だね」
「ここまで無傷で来たのは、初めてのハズです」
 死神の決め台詞にも動じず、迷コンビは至ってマイペースであった。
「そうなんだぁ。この人すごいんだねぇ!」
 迷トリオ結成か?
 先程から逆さのままの忍者君こと、霧狼君もかなりの楽天家らしい。殺すと言われて、どうしてそんなに楽しそうに笑えるのだろう?
「……」
 いい加減、付き合っていられないとばかりに、フレッドが動く。
「させない!」
 打って変わって凛々しい声の霧狼君であった。部屋の中を、突風が吹き荒れ、見えない風の『壁』が現れる。一瞬動きが止まるフレッド。
「……風。流尊(るそん)のものか」
 しかし、フレッドの冷気は風の壁を越え、一番前にいたセイを確実に捕らえていた。指向性の冷気がセイを包む。
「まず、一人」
 無言のうちに凍りつくセイ。あまりにあっけない最後。
「狭い部屋は相手に有利です! 場所を変えましょう、霧狼君!」
 空気がこもる室内は、冷気がこもりやすく、その上、霧狼君の風の規模を限定してしまう。氷の彫像と化したセイを残し、シンと霧狼君は縁側から表へ出た。
「無駄だ」
 縁側の地面に降り、振り返ったシンの背後にはすでに、月光を背に槍を振りかぶったフレッドの姿があった。
「くっ!」




カキンッ!




 霧狼君が、その槍を右腕にはめた手甲で受ける。よく見ると、その手甲からは、クワガタのような刃が生えている。霧狼君の故郷に伝わる伝説の武器を真似たものだ。冷気で皮膚が焼けるように痛む。しかし、一歩も譲らない。霧狼君もまた、戦士なのだ。
「遅い」
 受けられた槍の先を振り戻し、逆に柄の方を下から打ち出す。それは霧狼君の右手を払い、その顎を確実に捉えていた。
――― 風 ―――。
「かわした!?」
 槍の柄は、霧狼君の覆面を引き裂くのみにとどまった。神業と呼べる身のこなしだ。
「ありがとう、風」
 覆面を裂かれ、その素顔をあらわす霧狼忍。パッチリした目と、健康的な血色の唇。緑がかった長髪が少し垂れて目にかかっている。あどけなさを残しつつも、しっかりした芯の強さをもった、少年のような顔だ。
「……女か」
 霧狼君、いや、忍(しのぶ)は、くの一であった。彼女の一族の頭は『女』でなければならない。彼女は頭の娘。生まれながらにエリート忍者として育てられた。
「ボクが女だからって何さ。手加減でもしてくれるの?」
 自嘲気味の笑いを浮かべて、忍が再び風を放った。真空の巨大な刃がフレッドに迫る。
「いや、関係ない」
 フレッドの一閃が、空を斬った。真空の刃が分裂しフレッドをかすめ、後方に去る。頬を裂く風を無視し、無慈悲な死神は、最後を告げる。
「誰だろうが、殺す」

















 勇気は、初めての酒に完全に参っていた。

夢とも現実ともつかない世界で、彼は謎の老人に誘拐され、地球を守る正義のヒーローに改造されてしまう。
ところが、いざ悪の組織と戦おうとすると、相手の怪人は炎をまとって襲ってくる赤い髪の女の子。
女の子に手は出せないと躊躇していると、再び老人が現れて謎のクスリを無理やり飲まされる。
例によって巨大化してしまった勇気は、自衛隊の戦闘機を払い落としながら、東京タワーによじ登り、フライングボディプレスをかまそうとして、足を踏み外す。
で、さっきの女の子と仲間達が操るドラム缶みたいなロボットに体当たりを食らい、東京湾に落ちてしまう。
溺れそうになってもがいていると、さっきの老人が潜水服を着て、何か筒状のものを大事そうを持ち、海に身を投げる。
急に目の前が暗くなって、気がつくと、麗子の顔をした閻魔様の前。
お前は地獄行きだと言われ、僕は無実だ〜と泣き喚いたが、脳みそ筋肉みたいな鬼に左右をはさまれ、連行されてしまう。
連れて行かれたのは、巨大な冷蔵庫。
ここで永遠と凍え死に続けるのかと、再び喚いたが、軽々と中に放り込まれる。
中ではミトラがバナナで剣を鍛えていて、目が血走っている。
これ見よがしの温度計はマイナス二百度を指し示す。
あまりの寒さに両肩を抱いて縮こまった。




「さぶっ!」




 異様な冷気で、勇気は目が覚めた。




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