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第5話「作者、危うくなる」





 僕が、否、ワタクシが戦場を見渡せる丘で、史上最大の戦の成行きを見守っている時でした。何故僕が、否否、ワタクシがそんなことをしていたのかと言うと、否、申しますと、間諜(スパイ)としての仕事もあったんだけど、否、あったのですが、『あのお方(勿論、超美化済み)』の手がかりがあるのではないかという、一種の『カン』が働いたのでございます。(よし!)








<失礼して、以下、作者の独白>




 ……なにが『よし!』だ。忍クン、君の涙ぐましい努力は見とめるが、文章量が無駄に増えて、書いていてシンドイのだよ。いい加減にしてくれないか。
「なら、作者様が、私の口調を完全に変えてしまえば良いではないでしょうかと、存じますが?(よし!)」
 だから、何が『よし!』なんだよ。微妙に間違ってるし。確かに君を今の境遇に追い込んだのは私だが、何も口調まで変え……! なんだね、この喉もとに当たる冷たい感触は! 君っ、次元を超えて作者に危害を加えるなど、ふ、不可能だぞ!
「不可能なら、何故そんなに慌てているん……のでございますか?」
 そうか、そう言うことか。愛に不可能は無いと言うワケだな! 分かった、降参だ。君の要求を飲もうじゃないか。
「有難う御座います」
 っと、これで良いんだね。だから、いい加減に物語の中に帰って、お願い(;_;) ただでさえ、この物語はいつまでたっても終わらない、って言われてるんだから。
「畏まりましたわ」
 やはり、やりすぎのような……
「何か?」
 いいやっ! 何でもない! 何でもないからその手裏剣を納めてくれっ!
「では、くれぐれもお願いします」




 ……帰って行ったか。愛は偉大なのだな。うん。




<独白(?)終わり>








 こほん、そこで私(ワタクシと読んでください<作者からの命懸けのお願い>)は、確かに『あのお方』の力を感じたので御座います。一瞬で爆発し、すぐに消えてしまったのですが、私には分かったので御座います。

「また、一歩違いですわ」

 私の目前には、蒼月の機体が十機ほど転がって御座います。そして、付近の土がガラス化しております。間違いなく、あのお方がここにいらっしゃったのです。ですが、いくら探ろうとしても、一向に気配が感じられません。爆発的な力で、蒼月衆を無効化した後、すぐさま、どこぞへとお姿をお隠しになったのでしょう。
 私とて、間諜を生業とするもの。あのお方の行動がだんだんと分かって参りました。あのお方は、この戦をできるだけ小さな『小競り合い』で済ませようとなさっているのです。長引けば長引くほどに、民は疲弊し、国は荒れてしまう。大きな武力衝突で互いに被害が出て、引っ込みがつかなくなる前に、睨み合いに持っていき、妥協点を探させるおつもりなのですわ。それも、決して自分が表舞台に立たないようにしながら。
 ああ、どこまでも奥ゆかしい、高潔な人なのでしょうか!?




 あのお方にお仕えするものとして、私がこの場ですべきことは一つ。
















「くそう、なんだ敵の攻撃か!」(熱血漢)
 蒼月衆第十五部隊(のバカ数名)は、突然の事態にパニックに陥っていた。
「操縦系統がいかれているな。ここに攻撃を食らったら、一たまりも無いぞ」(クール)
「卑怯者の金の亡者なら、無防備な俺たちを遠慮なく攻撃するね」(ムードメーカー)
「うおぉっ、俺様大ピンチだぜ!」(自己中)
「あんた、いい加減うるさいわよ」(姉御)
 我ながら、適当なキャラ配置であるな。
 それはさておき、自分たちがやろうとしていたことを棚に上げて、卑怯も何もあったもんではない。
「だあっ! 機兵が動かないくらいでなんだ!」(熱)
「あ、ちょっとあんたまさか、生身で突っ込む気?」(姉)
「相手も生身だっ!」(熱)
「行っちゃったね」(ム)
「阿呆が。我々が何故機兵に頼らねばならんのか。物事の本質をわからん奴はこれだから…」(ク)
「ぐちゃぐちゃ言ってる暇があったら、止めなさいよ!」(姉)
「ここは、俺に任せろ!」(自)
「あーあ、一番任せられない人が、出てっちゃった」(ム)
「そう思うんだったら、あんたもさっさと行きなさい!」(姉)
「はーい」(ム)
「全く、使えんやつらだ」(ク)
「……、あんたも行くのよ!」(姉)
 まあ、そんなこんなで、姉御(仮称)が最後に表に出たわけだ。




 そして、紫の風が吹き抜けた。




 男たちは倒れていた。姉御は、駆け出そうとして、踏み止まる。彼女の喉もとに、鋭利な刃物がつきつけられていたのだ。そう、紫の風は今、姉御の背後にいた。
 風は言った。
「大丈夫、手加減はしたつもりです。皆様、気を失っているだけ……のはずですわ」
「『のはず』って、あんたねぇ!」
「振り向かないで下さい」
 鋭い制止に、姉御は自分の立場を改めて理解した。相変わらず、刃物は姉御の喉もとにあるのだ。下手に動けば、無事では済むまい。
「彼らの暴走は、事態を悪化させるだけです。それは『あのお方』の本意ではない」
「あのお方?」




「私の運命のお方ですわ」




「はあ」
「ですので(はぁと)」
 背後なので見えないのだが、姉御は、紫の風が満面の笑みを浮かべているのが分かった。女の感性というものであるな。
「ですので?」
「貴方にも眠って頂きますわ!」
 延髄の適切な個所を打たれて、姉御もまた、意識を闇に沈めることとなったのである。







「さて、次はどこかしら?」




 ……これはこれで、疲れるような。




「何か?」

 いやっ、なんでもありません! だから、その手裏剣をしまって下さいませっ!
















<蒼月衆第十五部隊臨時報告書より抜粋>




 我隊隊員による暴発事件の顛末につき、竜帝陛下に謹んでご報告致します。
 この度の天竜殿防衛作戦にて、我隊は、坤門付近に展開しておりました所、新谷様の特殊兵器で敵機兵無効化後に、我隊の摩劫羅五機が命令を無視して独断先行、私の制止を振り切り、敵機兵に突撃をかけました。
 私の監督不行届きにて、申し開きの余地もありません。
 直ちに、私を含めた残り三機で追尾しましたが、彼我の最高速は同じであり、追いつくことは不可能でありました。
 先頭を行く摩劫羅と、敵機兵の最後尾の距離が六百米に迫りました時、突如上空より急接近する巨大な『力』を、自機のセンサーが感知。直後に爆音と共に、全ての計器が振り切れ、操縦不能に陥りました・・・




<抜粋終わり!>




「ということだが、どう思う?」

「ええ、とりあえず、最後の『抜粋終わり!』の元気の良さが、理解できません。もう一つ言わせてもらえば、読み上げるのに一々『抜粋』と言うのも、意味不明です」

「……」

「巨大な力と言うのは、恐らく闇の方々のご尽力でしょう。彼らにとっての本当の敵が現れるまでは、できるだけことを荒立てたくはないでしょうしね。もっとも、本当の敵などと言うものが実在するとは思えませんが。とりあえず、利害が一致したと言うわけですね。我々もここで手を出すわけには行きません。前にも言いましたが、この戦は、久遠始まって以来の大規模な人対人の戦闘です。凰斉先生から頂いた資料で見る限り、刹那では人対人の戦いは例外無く憎しみの連鎖を呼び、初めにあったはずの大義は失われ、不毛な殺し合いが際限無く続きます。精神優位世界である久遠で、同じことが起これば、人々の精神の荒廃が世界を崩壊させかねない。しばらくは、睨み合いを続け、妥協点を探しましょう。それに、場合によっては、ミトラさんに竜帝を譲っても良いとも思っているのですよ。我々が一番に考えるべきは、久遠の民全ての幸福です」

「……」

「なにもそんなに落ち込まなくても良いじゃないですか?」

「『だるまさんが転んだ君』と言う名を使わなかったことに、何故ツッコミをいれてくれない?! 何故『特殊兵器』なんだ!! 今回のは正式には『だるまさんが転んだ君無償版』なんだぞ? 発動時に大音量のCMを鳴らしてスポンサー料を取る事で実現した、出血大サービスなのだぞ? スポンサーを探すのに俺がどれだけ苦労したと思ってるんだ!」

「……あの意味不明の騒音は、作動音ではなかったのですね」
















 光の中。
 三つの人影が、浮かんでいた。
「幻(ファンタム)は既に動き、武(フォルテ)も間もなく動き出す」
 甲高い声が、光に満ちた虚空に響く。
「いよいよ、我々の出番なのですな」
 穏やかな声には、充足感すら感じられる。
「お主らにも、やってもらうことは沢山ある。そう浮かれるものではない」
 威厳に満ちた声は、依然として厳しい。




 彼らの見つめる、光の一角に、砂漠が映じていた。




 荒涼たる大砂漠である。
 そこに巨大な建造物があった。
 建造物はゆっくりと動いていた。
 それは、砂の海を行く巨大な船であった。
 船のへさきから、内部に向けて、大きな空洞が口を開けていた。
 巨大な空洞の中に、その鉄塊はあった。機械というより、巨大な生物を思わせる流線型のフォルム。隆々たる筋肉を思わせる盛り上がった装甲。暗黒のトンネルの中で、微かな光を全身から放ち、呼吸に似た起動音を響かせていた。
 久遠の如何なる機兵とも異なっている。タキトの民が召喚する大地の精霊とも違う。
 巨人と呼ぶのが一番相応しいように思われた。
「拳聖様、射出準備は宜しいですか?」
「とうに準備は出来ておる」
 張りのある大きな声。声の主は、その声に似合った巨大な体躯の老人であった。乱雑に頭の後ろでまとめられた長い白髪と、豊かなあごひげを除けば、老人と呼ぶ者はいないだろう。老人は、鉄の巨人の中にいるらしい。
「了解。WIL5(ウィル・フィフス)、オンカタパルト、スタンバイOK。予測ライン上を確認せよ」
「進路オールグリーン!」
「ラインを展開せよ!」
「了解。エナジー充填、八十、九十、九十五、百!」
「誘導磁界、展開していきます!」
 船の前方で、陽炎のように景色が歪み、その歪みが重なって一筋の輝く糸となり、空へ向かって伸びていく。その光のラインが、遥かなる空へと到達する。
「ライン開きました」
「拳聖様、走行を開始して下さい」
「あい分かった」
 巨人は足を動かすことなく、まるで滑るようにトンネルを疾走する。
「WIL5、走行開始を確認」
「続いて、外部加速開始!」
「開始します」
 暗闇であったトンネルの内部が、一瞬でまばゆい光に包まれた。きらめく光の粒子が出口とは反対方向に収斂していく。流れ去る粒子に空間が歪み、巨人を出口へと加速させていく。
「ライン角度、ライン強度、加速速度を最終確認せよ」
「角度良し」
「強度良し」
「速度良し」
「良し、最終加速せよ!」
「最終加速します!」








 輝くトンネルから放たれ、空へと続く光の道を、老人を乗せた巨人は悠然と飛んで行く。












「そのさま、威風堂々」








「その者、光の歩み手」








「そは、久遠に光をもたらす者なり」








「「「我ら、光の名の下に、永遠の秩序を望む者。いざ行かん。約束の地へ」」」<







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